ロシアの決済システム「ミール」のクレジットカード。RIA
西側諸国が、対ロシア制裁を行っている中で、どちらかというと「多くがブーメランとなって西側諸国自体を傷つけている」という印象が強いですが、実際、国際通貨基金 (IMF)は、制裁が世界に「深刻な影響を与える」と警告しています。
ロシアに、ではなく、「ロシア以外に深刻な影響を与える」ということです。
経済のこともあるのでしょうけれど、直近で考えれば「食糧」です。
国連の食糧農業機関、世界食糧計画(WFP)は、「歴史上最大の人道危機としての飢餓が訪れる」ことを警告しています。
最近の以下の記事などで書いていますように、この数日などで、各国の穀物輸出禁止が相次いでおり、今後半年後程度の期間で状況を考えると、途上国だけではなく、日本などの食糧自給率が低い国も非常に厳しくなると思われます。
穀物の輸出を禁止・停止した国
・ロシアが小麦、大麦、トウモロコシなどのすべての穀物の輸出を禁止 (03/15)
・ウクライナが、小麦を含むすべての穀物の輸出を禁止 (03/10)
・アルゼンチンが、大豆の輸出の停止 (03/15)
・ハンガリーがすべての穀物の輸出を禁止 (03/07)
・ベラルーシが小麦の輸出を禁止 (03/16)
どの国も、世界的な穀物輸出国です。
このような食糧輸出国の自国の穀物保護が拡大した場合は、次第に「穀物の入手自体が困難になってくる」という近い将来さえ想像できます。
そのような結果を生んでいるとしか言えない「対ロシア制裁」ですが、ロシアそのものはどうなのかということについて、ロシアの RIA 通信が報じていました。
ロシアの自国の報道ですので、自国寄りの部分はあるにしても、結論としては、一部の機能を除き「さほど影響は受けていない」ということになりそうです。
ロシアは、食糧と金属、そしてエネルギーが自給できますので、その点が大きい部分はあります。
これら食糧と金属、そしてエネルギーががない国は、今後相当厳しい状況に直面しそうです。
ロシアの RIA 通信の記事をご紹介します。
多くがロシアのものに置き換えられた:多くの産業は制裁の影響を受けていない
Заменили своим: какие отрасли в России неуязвимы для санкций
ria.ru 2022/03/14
西側はロシアの銀行をブロックし、支払いシステムがロシアで機能することを拒否した。あらゆる貿易関係が脅威にさらされている。
ただし、すべての領域がそれほど脆弱であるわけではない。モスクワは2014年の経験から学んでいる。
RIA 通信は、ロシアのどの国内部門が制裁の準備ができていて、どれがそうではないかを把握した。
クレジットカード
国際決済システム(IPS)である Visa と Mastercard はロシアの銀行を去った。
しかし、ロシア国内では、すべてが機能している。それは、National Payment Card System(NSPK)によって提供される。有効期間が満了すると、単に新しいカードが発行され、それはすでに国内では機能している。
ただし、海外では別の問題だ。ロシアで発行された Visa と Mastercard はもはや海外では機能しない。
鉄道省が株主に認可されたロッシヤ、北極海航路、ソビンバンク、インベスカピタルバンクのカードのサービスを停止した 2014年以来、ロシアはこれに備えてきた。
その後、2015年から発行されているミールカードのオペレーターである NSPK が設営された。これはロシアの従業員の給与、年金、手当、奨学金に送金している。
昨年の第 3四半期の終わりにロシア人のこのシステムのシェアは 32%を超えた。
ミールカードは現在、23の外国銀行を含む 270以上の銀行によって発行され受け入れられており、今、需要が急増している。ロシアでは、このクレジットカードは制限なく機能している。
このカードは、トルコ、ベトナム、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、南オセチア、アブハジアでも使用できる。
バージョン6.0以降の Android スマートフォンで利用可能なミール Pay モバイルウォレットもある。
また、中央銀行は 2019年から、電話番号で送金し、店舗での購入代金をQRコードで支払う高速決済システムを開発している。
中国のクレジットカード
海外旅行者のために、ロシアの銀行は、中国の決済システムである銀聯、または「銀聯 - ミールカード」を積極的に発行している。「米国や EU を含む 180か国で受け入れられています」と、FastRiver フィンテックプラットフォームの COO である Ksenia Artemyeva 氏は述べている。
ロシアのズベルバンク、ティンコフ銀行、アルファ銀行、ガスプロムバンク、MCB、ライファイゼン銀行は、共同バッジ付き銀聯 - ミールカードの発行を計画している。ミールが事業を展開している国では、銀行のアプリケーションを介してデジタル形式のカードを受け取り、モバイルウォレットにダウンロードして、キャッシュ不要で購入することができる。
銀行間 SWIFT システムからのロシアの排除は、国際決済と、通貨に関連する何らかの方法ですべての業界の業務を複雑にした。最も影響を受けたのは金融セクターと輸出だ。
ただし、ここで述べておくことは、第一に、これはロシア国内の事業には影響を与えない。対外貿易については、中国の CIPS、インドの SFMS がある。
ロシアの金融メッセージ転送システム(SPFS)により、国内銀行は円滑に機能することをロシア中央銀行の責任者は保証している。
ロシアの金融メッセージ転送システムには、海外からも参加できる。ちなみに、ベラルーシ、キルギスタン、カザフスタン、アルメニア、タジキスタン、キューバは、この金融メッセージ転送システムに、すでにつながっている。
アナリストたちは、時間の経過とともに、SPFS が SWIFT に取って代わるだろうと述べている。しかし、ヨーロッパの銀行は、ロシアのパートナーからの支払いを受け入れてクレジットすることを拒否している。彼らは規制当局からのいかなる制限にも該当することを恐れている。
技術の遅れと食糧の成長
注目すべきは、農業と畜産における輸入代替の成功だ。そのため、2020年には、食品の輸出が初めて輸入を上回り、307億ドルに達した。これは物理的には約 7,950万トンとなる。
輸入は、豚肉で 10倍減少し、牛肉で 2.5倍減少、鶏肉は半分に減少した。
牛肉の供給に関しては、ロシアがオーストラリア、アルゼンチン、ブラジルを追い抜いている。野菜生産も遅れをとっていない。トマトの輸入は 45%減少し、リンゴとナシの輸入は 50%減少した。
しかし、目標はまだ達成されていない。ロシアの気候が、野菜の育成を妨げる。どんなに頑張っても、野菜、果物、ベリーは早く育たない。
また、ロシアは産業用のほぼすべての種類の金属を自国で提供できる。希土類は中国から輸入できる。将来的には、ロシアは独自の高品質のマイクロチップと機器の生産を行うだろうと専門家たちは結論付けている。
しかし、ロシアの一番の弱点は、テクノロジーだ。特にマイクロプロセッサとソフトウェアが非常に弱い。サイバーセキュリティの分野での進展を除けば、このジャンルで、ロシアが自慢できることは何もない。
医薬品もだ。医薬品の輸入は依然として優勢だ。
適切なレベルの投資、能力、および管理があれば、状況は数年で修正できると見られるが、しかし、現在の制裁の下で、そのプロセスは遅れるだろう。