現在の世界で、しかも全世界的に進行している最も重大な問題は、食の涸渇の懸念であり、農業でのその根本的な原因のひとつに、
「人類史上で見られたことがない肥料の異常な高騰」
があります。
当然、農家の方は生業として農業をされているわけで、「どれだけやっても採算がとれない」状態が続くのなら、続けられなくなります。
それが今、世界中で起きつつあります。
米ブルームバーグが、コメの栽培が盛んな南米ペルーで、「不採算により米作から撤退する生産者が増える可能性」について伝えていました。
理由は、肥料の高騰です。
この肥料の高騰は、全体的にいよいよ普通ではない状態になっているようで、以下は、肥料の主要な原料のひとつである「カリ」というものの、米国とカナダとブラジルでの価格の推移です。
米国、カナダ、ブラジルのカリ価格の推移(2020年1月 - 2022年3月)
zerohedge.com
アメリカやカナダで、2年前の 4〜5倍、ブラジルでは、2年前の 6倍近くに価格が高騰していることがわかります。
グラフを見ると、おわかりかと思いますが、ロシアがウクライナに侵攻する以前に、すでに肥料価格は過去最大の高値に達していたところに、西側による対ロシア制裁によって、さらに肥料価格が高騰したのです。
侵攻前の肥料価格の高騰の原因は、主に、肥料を作る際に必要な天然ガスの価格の高騰でしたが、そこに加えて、対ロシア制裁後、ロシアは肥料の輸出を禁止し、さらに途方もない価格へと上昇していきました。
[記事] 肥料の原料「硝酸アンモニウム」の世界最大の輸出国であるロシアが、輸出を停止
地球の記録 2022年2月28日
結局、世界中で「今シーズンは農作をやめる」という人たちが相次いでいくという事態になっていかざるを得ない現実があるようです。
アメリカなどの農業大国でもそれが起きつつあり、もう少し時間が経つと明らかになっていくのではないでしょうか。
昨年 11月の韓国の報道で、以下のタイトルの記事がありました。
(報道) 尿素など価格急騰…「1トンの肥料の方が1トンのコメより高い」食糧難懸念 (HANKYOREH 2021/11/09)
これは、ウクライナ戦争のずっと前の話であり、その後、肥料はさらに上昇しています。このような「1トンの肥料の方が1トンのコメより高い」というようなことが世界中で起きていると見られ、今後も、農家の方々の生産の縮小や撤退が相次ぐ可能性があります。
日本でもある程度同じことが進行しても不思議ではありません。
ブルームバーグの記事をご紹介します。
肥料の高騰がペルーの稲作を不採算にしている
Fertilizer Squeeze Is Making Rice Farming Unprofitable in Peru
Bloomberg 2022/04/07
ロシアのウクライナ侵攻によって悪化した世界的な肥料不足は、何千万人もの人々の主食であるペルーでのコメ生産を危うくしている。
ペルーの米作生産者協会によると、肥料の供給不足の中で作物の栄養素である尿素の価格はほぼ 4倍に急騰し、生産者たちのコストインフレを助長している。
「状況は重大です」と、生産者協会会長エドウィン・エドケン・アルタミラノ氏はラジオでのインタビューで語った。
「私たち生産者はお金を失い続けているだけの状態です」
アジアの多くの地域と同様に、コメはペルーの食事の要であり、推定 15万人の生産者たちの収入源でもある。
ウクライナの戦争が主要な肥料の生産地域である黒海からの供給を縮小させているため、肥料不足は世界の食糧安全保障に対する最新の脅威となっている。
ペルーでは、稲作農家の損失の見通しが緊迫した政治情勢につながっている。
ペドロ・カスティジョ大統領は、燃料と食料の価格が高騰する中、社会不安の中で弾劾の試みを生き延びたばかりであり、ペルーでの価格高騰に対しての市民の抗議行動が激しくなるにつれて、政治家たちは解決策に取り組んでいる。
生産者協会のアルタミラノ氏によると、ペルーでの政治的混乱により、コメ生産者補助金の交渉は枯渇したという。氏は以下のように述べる。
「今は利益がなく、私たち米作生産者が稲作をやめる原因になるでしょう」
リマの消費者物価は 3月に前年比 6.82%上昇し、1998年8月以来最も高く、中央銀行は 4月7日に金利を 0.5パーセントポイント引き上げると予想されている。