「心臓治療の混乱が悪化している」と英国心臓財団が発表
イギリスで体調不良による離職や休業などの労働力の喪失が著しく上昇していることを最近の In Deep で書きました。
[記事] イギリスで体調不良による労働力の喪失や離職が、経済に影響が出る深刻なレベルに。ちなみに、急増したのはパンデミックが始まった2020年からではなく「なぜか」2022年から
In Deep 2023年5月22日
これを報じていた英国テレグラフは、「メンタルヘルス問題の増加」ということで労働力不足の原因のすべてを語ろうとしていました。
しかし、テレグラフ自身が示していた以下のグラフで、ある程度わかるように、実際には、少なくとも、2022年から劇的に増加しているのは、
・その他の病気
・内臓の問題や身体の痛み
であることが漠然とわかります。
以下は、そのテレグラフが示していたグラフに日本語を加えたものです。
英国の病気による経済活動への影響の推移
telegraph.co.uk
しかし、最も増えている「その他の病気」という、カテゴリー表現では、どんな病気が増えているのか非常に曖昧です。
この「その他の病気」というカテゴリーの中で、
「特に増えているかもしれない疾患」
が、イギリスの心臓ケア対策の最大機関である英国心臓財団(BHF)の最近のニュースリリースでわかります。
以のタイトルのニュースリリースです。
英国で心臓ケアの待機リストが3年間で63%増加 (BHF 2023/05/11)
Heart care waiting list rises by 63 per cent in three years in England
このニュースリリースの中にある文章で、衝撃的なのは、「緊急を要する心臓の状態の人たちの治療が間に合っていない」ことです。
以下のようにあります。
(英国心臓財団のニュースリリースより)
> 衝撃的なことに、一刻を争う心臓検査や治療を、1万人以上が 1年以上待ち続けており、過去最多となった。これは今までで初めてのことだ。3年前の 2020年2月には、一刻を争う心臓検査や治療を 1年以上待ち続けていた人たちは、わずか 28人だった。 BHF
28人から 1万人というのは、350倍などの増加というような、ものすごい変化ですが、他にも英国心臓財団には、
「英国で心拍リズム異常のある人の数が 10年間で 50%増加」
というニュースリリースもありました。
この「心拍リズム異常がある」というのは、心房細動といわれるものです。
この見出しも巧みなレトリックにより「 10年間で」としていますが、先ほどの、心臓治療の待機リスト数が急激に増えたのが、この 3年だったということから(実際には、2022年からだと思われますが)、10年間で、という表現には意味がないように思われます。
心臓の問題が特に増加したのが 2022年からというのは、以下の英国心臓財団のグラフでわかります。
心臓手術を 1年以上待っている人の数の推移
bhf.org.uk
2020年以前は、心臓治療の長期待機者などはほとんどいなかった英国で、ロックダウンが始まった 2020年春から少しずつ増加していき、ワクチン接種が始まった 2020年末から、いったん劇的に増加して、そして、なぜか、そのどちらも終了してずいぶんと経った 2022年の春から、また急激に増加しています。
2022年8月以降のデータはないですが、いまだに増え続けているとすれば、大変な増加となります。
また、このグラフは「英国の超過死亡数の増加の推移」と、ほぼ同じ傾向を示しています。以下の記事にあります。
[記事] 英国の累積超過死亡数が22万人を超えるまでの2019年からの道のり
地球の記録 2023年5月16日
なお、これらすべてのニュースリリースには「原因はいっさい推測されていない」という共通項があります。
「私たちは、この急増の原因を突きとめなければならない」と書かれています。
なお、皮肉なことなんですが、このように、心臓手術を長く待っている人の数が増えていることの理由には、心臓疾患自体が増えていると共に、
「医療機関の深刻な人材不足」
があります。
なぜ、イギリスで医療の人材不足が起きているか。
それは、In Deep の先ほどの記事にありますテレグラフの以下の部分にあります。
(2023年5月22日の In Deep より)
> 国家統計局の統計によると、公共部門の労働者の病気欠勤は 50%高く、メンタルヘルスの問題に関連する可能性が 2倍になっている。医療サービスはこの問題を象徴している。
>
> 2022年 11月には、看護師のストレスや心理的問題により 75労働日に 1人が失われており、これは、2015年の 100労働日に 1 以上から大幅な増加となる。
>
> 救急隊員の場合、この数字は 60労働日に 1人に増加している。
全体として、問題の根幹は同じところから出ているようです。
なお、イギリスの初回のワクチン接種は、DNA タイプのアストラゼネカ社のワクチンだったということにも留意したいです。
以下は、新潟大学名誉教授の岡田正彦氏の 2021年3月の声明からです。
> DNA ですから、接種した人の細胞の遺伝子の中に組み込まれて、それはずっと残ります。ですので、絶えずこのタンパクが作り続けられることになります。
今後も、おそらくは事態の改善が見られない可能性が高い理由もここにあります。
英国心臓財団のニュースリリースをご紹介します。
英国で心臓治療の待機リストが3年間で63%増加している
Heart care waiting list rises by 63 per cent in three years in England
bhf.org.uk 2023/05/11
5月11日に発表された英国民保健サービス (NHS)イングランドの最新統計によると、心臓疾患の待機リストに入っている人の数が、2023年3月末時点で過去最高の 38万787人に達しており、先月からだけでも、 8,000人近く増加していることがわかった。
最新の統計のこの増加は、パンデミックが始まる前の月である 2020年2月と比較して、心臓病の待機リストが 63パーセント増加したことを意味する。
この数字からは次のことも明らかになる。
・2023年3月末の時点で、139,472人が救命の可能性のある心臓治療を 4カ月以上待っており、これは心臓治療の待機リストに載っているすべて人の 3分の1( 37パーセント)をはるかに上回っている。治療を待つ期間が長くなるほど、心不全による障害や早期死亡のリスクが高まる。
・衝撃的なことに、一刻を争う心臓検査や治療を、1万人以上が 1年以上待ち続けており、過去最多となった。これは今までで初めてのことだ。3年前の 2020年2月には、一刻を争う心臓検査や治療を 1年以上待ち続けていた人たちは、わずか 28人だった。
深刻な混乱が悪化している
英国心臓財団のアソシエイト・メディカル・ディレクターであるソーニャ・バブ・ナラヤン博士は、これについて次のように述べている。
「心臓に関して言えば、タイムリーな治療が生死を分ける可能性があります。だからこそ、一刻を争う心臓治療を長らく待ち続ける記録的な数の人々が毎月、あるいは、毎年増え続けているのは非常に衝撃的です」
「悲劇的なことに、この心臓医療への深刻な混乱は悪化し続けており、回避可能な心不全を抱えながら生きる人たちがさらに増え、さらには命が失われる可能性があります」
「国民保健サービスのスタッフたちへの負担が大きくなりすぎており、膨大な心臓ケアの未処理の仕事に取り組むのに十分な人材がいません。この危機に対処するには今、断固たる行動が必要であり、まず政府の待望の人員計画の即時公表と、心臓病の医師、看護師、その他の専門家を採用し維持するための投資が必要です」