2022年もヨーロッパは各地で干ばつが継続しました。jordantimes.com
食糧安全保障の問題の拡大は必至
北半球では、冬が終わろうとしています。
昨年の秋には、ヨーロッパがロシアからのエネルギー供給が断たれるか、あるいは著しく減少したために、もしこの冬が寒くなっていた場合、今の 3月頃には、「石油や天然ガスが枯渇する」という事態も予測されていました。
以下は、昨年 9月に、国際エネルギー機関（IEA）が、欧州のガス貯蔵量の推移を予測したものです。
国際エネルギー機関（IEA）による欧州のガス貯蔵量の推移の予測
IEA
もし冬の寒さが厳しかった場合は、今頃はすでに、エネルギー供給ができない状況となると予測されていたのです。
しかし、結果として、
「ヨーロッパのこの冬は、全体として、とても温暖だった」
のです。
そのために、上のようなエネルギーの問題はまったく起きることはありませんでした。それどころか、この冬のヨーロッパの天然ガスの在庫は、「通常の冬より 80%多い」ことが示されていました。
温暖な気候によりエネルギー危機は乗り越えられたのです。
ところが。
その温暖な気候のせいと、「降雪が少なかった」ために、まだ 3月に入ったばかりだというのに、ヨーロッパで「干ばつが始まっている」のです。本格的な春になっているわけではないのに、すでに一部の国や地域では取水制限などが始まっています。
その徴候は、2月からありました。
2月中旬には、水の都といわれるイタリアのベネチアで「運河が干上る」という事態が起きました。
2月20日 干上がったベネチアの運河。ボートも運航できず
xtech.nikkei.com
そして、農業大国のフランスでは、2月の終わりまでに、「 32日間、雨が降らないという記録的な雨不足」となっています。
それからも降っていないとすれば、40日近く「雨がない」ことになります。
フランス、冬の干ばつが発生。32日間連続で雨が降らない事態に
フランスでは現在、雨不足がまたしても深刻化している。
フランスの冬は暗く、雨が多いことでも知られているのだが、仏気象庁の発表によれば1月から2月にかけては32日間も雨が降らず、1959年以来の歴史的な記録になっているという。
仏エコロジー移行省のクリストフ・ベシュー大臣はこれを受け、「観測が始まって以来、冬期にこれほどの降雨不足に陥ったことはなく、事態は昨年の同時期よりも深刻な状況にある。国内4県ではすでに水の使用が制限され、干ばつ警報が発令されている」と 2月26日に発表した。
designstoriesinc.com 2023/02/28
先日、ポーランド科学アカデミーの科学者が、「今後、ヨーロッパは非常に厳しいことになる」として、
「地獄がヨーロッパにゆっくりとやってくる」
という表現さえ使って警告していました。
以下に報道を翻訳しています。
（報道） 「地獄がゆっくりと私たちにやってくる」 – ポーランドの物理学者がヨーロッパの自然異常について語る （2023/03/06）
このポーランドのマリノフスキー教授という方は、今後、気候の状況に変化がない場合、非常厳しい年になる可能性を指摘しています。
今後の気象の状況はわかりませんが、過去最長に近い 3年続いたラニーニャ現象が終わろうとしています。ウェザーニュースによれば、6月までに今度は「エルニーニョ現象」が発生する確率を 50%、としています。
エルニーニョになった場合、気候がこのようになる、という確実なものはひとつもないですが、「なりやすい傾向」はややあります。それについて、ウェザーニュースは以下のように書いています。
（ウェザーニュースより）
＞ エルニーニョ現象が発生した場合、西太平洋熱帯域の海面水温が低下し、積乱雲の活動が不活発となります。
＞
＞ このため日本付近では夏の太平洋高気圧の張り出しが弱くなり、気温が低く、日照時間が少なくなる傾向があります。
weathernews.jp
世界的に、再び食料の問題が大きくなっていくのかもしれません。
先日、日刊ゲンダイに、「日本人がコメを食べられなくなる日が現実に…個人経営の農家は大赤字で離農加速の深刻」という記事がありましたが、日本のコメの生産者たちの危機的な状況が述べられていました。
また、イギリスでは、すでに「多くの野菜がない」状態となっています。
［記事］ 英国で起きている「極端な野菜の枯渇」は、今の生産、流通システムのままだと今後さらに悪化するという専門家の意見。では日本の今後は？
地球の記録 2023年2月27日
2月25日、野菜が消えたロンドンのスーパーマーケット
The Guardian
春以降の状況次第では、ヨーロッパも、そして日本も、構造的な問題を含めて食料安全保障という言葉の重みが表面化しそうです。
今回は、フランスのテレビ報道の内容を取りあげていた記事をご紹介したいと思います。
テレビの生産者たちへのインタビューを記事にしたものです。
フランスの農家はすでに干ばつによる収穫への影響を心配している
InoTV 2023/03/09
フランスのこの冬は、5シーズン連続で雨不足と気温の上昇に見舞われていると報告されている。取水制限、および灌漑制限がいつでも導入される可能性がある。
ガールド州シュメネ出身の生産者であるリチャード・フェスケ氏は、先月スイートオニオンの種を植えたが、干ばつのために、これらの作物に人の手で水をやらなければならない。2022年の雨量は例年の半分だった。
リチャード・フェスケ氏 農業生産者 : 「私の父と祖父の時代には、苗木に人の手で水をやることはありませんでした。私がここに定住して以来、それは 26年前のことですが、多くのことが変わりました。今では、苗に水をやらないことは考えられなくなっています」
フェスケさんは、次の乾燥した夏を見越して、水を貯蔵するための 2つ目の貯水池を建設したが、困難に満ちている。
別のスイートオニオン生産者は、今後数週間で導入される可能性のある灌漑禁止を恐れて、それに備えて準備している。
フィリッペ・ボイソン氏 スイートオニオン生産企業の会長 : 「私たち農家は 30年間、多くの問題に取り組んできました。そして今、私たちは不可能なことを要求されています。それは、（取水制限などにより）作物への水やりができなくなる可能性があることです。作物は水がなければ生きられません」
水位が十分に上がらず、生産者の人々は心配している。たとえば、ここガロンヌでは、水位の測定値がこれほど低い結果を示したことは過去にない。
ニクラ・カルドー氏 ガロンヌ川の使用者のための同盟労働組合のアナリスト :
「ここが水と植生の境界です。通常は、木の幹が終わるところから水位が始まります。しかし、現状では、あの木から水までの距離は 1メートル近くあることがわかります。水量は通常の 3分の 1しかありません。この時期に記録された最低レベルを下回っているのです」
オートガロンヌ県のサンリス出身の生産者は小麦を栽培しているが、それらは本来の成長をしていない。水分が不足しているため、黄色くなり始めているのだ。
クリスティエル・カーペンティア氏 小麦生産者 : 「この土地に水をまくことは不可能なので、雨が降ることを祈っています」
カーペンティア氏は、200ヘクタールのこの農地の購入に投資された 30万ユーロ （約 4300万円）の利益を得ることができないのではないかと心配している。
クリスティエル・カーペンティア氏 小麦生産者 : 「一定の販売量に達しない場合は、農場を閉鎖します」
フランス気象局によると、今年の冬は 5シーズン連続で雨が少なく、平年より高い気温となった。