最期の食糧危機 異常気象

農業気象学者による南北アメリカの今後の天候の推移の見解からは、今季の収穫量の減少は避けられない模様

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市場から消えていく小麦

ロシアやウクライナに続いて、熱波が続くインドが「小麦の輸出停止」を発表し、インドは小麦の大生産国であったこともあり、世界の食料関係者に衝撃を与えています。その後、世界中の業者が自国の小麦の確保に懸命となっていることが報じられています。

以下は、5月17日のロイターの記事からです。

 

> インドが国内の価格高騰を抑える狙いで小麦輸出の停止を14日に決定したことを受け、アジアの小麦輸入業者は代替品の確保に奔走していると、貿易筋が明かした。週明け16日の米シカゴ穀物市場は小麦先物が値幅制限いっぱいまで上げた。 (ロイター 2022/05/17)

 

日本は小麦の一大「輸入」国であり、国内で流通する小麦の 86%が輸入品で、そして、そのうちの約 8割以上が、アメリカとカナダの北米からの輸入となっています。

ところが、今年、その北米の春の農作進展状況があまり良くないのですね。

 

[記事] 5月の北米で異常な寒さが続き、カナダとアメリカの一部では作付けが5月になっても始められず、アメリカでは穀物備蓄が大幅に低下する予測も
 地球の記録 2022年5月7日

 

この 5月の初めの時点で、アメリカの多くの地域で植え付けに極端な遅れが出ており、カナダに至っては、農作物関係企業の CEO が、

「カナダの生産者は、実質的には 99%、まだ畑に出ることができていない」

と述べたことが伝えられています。

実質的に、この状況が 6月まで長引けば、今季の植え付けはかなり厳しいものとなるようです。

その後、北米の状況はどうなっているのかということについて、アメリカの上級農業気象学者が穀物情報メディアに見解を述べていました。

簡単にいえば、現況については「あまり良くない」ということになり、ただ、ラニーニャなどの終息の時期によっては、若干の希望もあるようです。

その記事をご紹介します。




 


気象問題が南北アメリカ大陸に影響を与えている

Weather problems impacting the Americas
world-grain.com 2022/05/17

乾燥がブラジルに戻ってきている。4月末に同国でさらに広がりつつあった水分不足を約 3週間、綿密に監視していた。その間、市場の焦点は急速に北米に戻り、天候の逆境について多くの話がある。

ブラジルの状況は良くない。

影響を受ける地域は主にマットグロッソ州とゴイアス州だが、これらは全体として、今年予想される二期作の作物の大部分を占めている。栽培中の現在のような乾燥状態は決して良いことではなく、収穫量は低下するだろう。トウモロコシの半分強が 4月末に生育し、残りの作物は 5月前半に生育すると予想されていた。

ブラジルでは、4月の最後の 10日間に作物の乾燥ストレスが発生したが、一般的なにわか雨や雷雨によって生産量の削減を最小限に抑えることができた。

今後、ある程度の降水の可能性はあるが、モンスーンの雨は今シーズン終了しており、この地域に雨を降らせる唯一の可能性は、中緯度の前線システムだけとなる。

アルゼンチンの気温が 5月に通常よりも低くなる可能性があり、これはブラジル南部に冷たい大気を送り、マットグロッソ州、マットグロッソドスル州、パラナ州、ゴイアス州に前線システムを送る可能性がある。そのような前線システムはその地域に降雨をもたらし、減少する収獲量の傾向を逆転させる可能性がある。

しかし、5月の最初の 10日間は、強い降雨に至るような強力な前線システムは期待されていない。マットグロッソ州のトウモロコシと綿花の栽培地域に降雨が訪れるのに時間がかかるほど、収穫量が減少する可能性が高くなる。

ほとんどの受粉は 5月の第 3週までにすでに完了しており、その時までに大雨が降らなければ、二期作のトウモロコシのほとんどは収穫量が減少する。一部のアナリストたちはすでに予想収穫量を減らしている。

 

北米に迫る問題

北米は、2022年の悪天候に対して脆弱な、世界の次の大きな食糧生産地域であり、米国での気象の問題は、食糧不足を引き起こし、市場価格をさらに高くする可能性がある。

北米の気象問題はすでに進展している。

カナダ南西部の小麦と菜種の地域はいまだ乾燥しすぎているが、その逆に米ノースダコタ州からカナダのマニトバ州は、4月の過剰な降雨により、ほとんどの農家が畑に入ることができなくなった。おそらく 5月中旬までは、農作業のために状況が十分に改善する可能性は低い。

米国中西部、デルタ、テネシー川流域のさらに南では、雨が多すぎて気温が通常よりも低いため、春の稲作とトウモロコシの作付けが遅れている。

湿りすぎている気候は 5月の第 1週にピークに達し、多くの地域でほとんど、またはまったく植え付けの進展が見られなかったが、天候の改善と植栽の成功にはまだ時間がある。

しかし、その間、米国の冬小麦地域はあらゆる種類の悪天候に苦しんでおり、減産が見込まれている。

干ばつが、メキシコ北部から米国の西半分の大部分を支配しており、それはカナダ南西部の大草原にまで及んでいる。干ばつは、すべてが互いに補強し合う気象パターンの独特な組み合わせによって引き起こされてきた。

ラニーニャ現象が、21か月間も続いており、この現象がこれほど長く続くと、北米、そしておそらく中央アジアの一部で干ばつの可能性がある。

22年サイクルの太陽周期におけるこの時点でのラニーニャの持続的な存在は、しばしば複数年の干ばつに関係しており、この干ばつは 2020年以来続いている。

太平洋10年周期振動 (太平洋各地で海水温や気圧の平均的状態が、10年を単位とした2単位周期で変動する現象)の負の値(北アメリカの西海岸沖の海水気温が通常よりも冷たく、西で暖かいこと)は、米国中部の強い夏の高気圧の張出しにつながり、それはカナダまでに広がる可能性がある。

過去にこれら 3つの重要な気象の影響すべてが同時に発生した時には、そして、それにかなりの強度があった場合は、ほとんどの場合で、米国平野と中西部の一部で干ばつが発生した。

気象パターンは必ずしも同じように再現されるわけではないが、気象機能のこの組み合わせは、農業と生産に悪影響を与えるという厄介な傾向があるのは事実だ。

春の降雨シーズンのスタートと、それに続く夏の乾燥のためにコーンベルト西部での植え付けが遅れた場合、2022年の生産には良い兆候がなく、この気象状況トレンドに変化が生じるまで、少なくとも一部においては、米国の生産量が不足する可能性が高い。

しかし、生産損失がどのくらいの規模になるかの決定については議論が続いており、それを予測するのは時期尚早だ。

 

ラニーニャの影響

天候の影響の変化が進行中であり、北米、特にカナダの乾燥地域で変化の可能性が高まっている。

ラニーニャはその強度がピークに達しており、5月に弱まり始めるはずだ。その弱体傾向は 6月まで続くだろう。これが起こっている間、3月に起こった成層圏昇温 (成層圏において、突然気温が上昇する現象)の長引く影響は、4月の間に北米で寒さを引き起こした。

これらの出来事による影響は今後減少すると見られ、北米での農業進展の変化の可能性を高める。ただし、この変化は、北米の西部に沿って、その上に低気圧の張り出しを置く太平洋10年周期振動の負の段階によって主導される。

北米西部の上空に低気圧の谷が配置されると、秋、冬、早春の高圧海嶺が北米西部から大陸の中央部に移動する。

この高度の高気圧の移転は、米国平野とコーンベルト西部の最近の雨に偏った湿った天候に終止符を打つだろう。しかし、天候の変化は 5月下旬までは完了しないだろう。 一方、米国平原とコーンベルト西部は、高所にある高気圧の張り出しのために、より乾燥して気温が高くなる傾向にある。

カナダでも変化があるだろう。米国北西部に流入する暴風雨システムが北東の大平原に移動し、7月と8月には、頻繁に降雨が発生することが予測されるため、何年もの間、干ばつに見舞われているカナダ南西部の平野部のほとんどは、干ばつからの救済の可能性がある。

これらの降雨量の改善の一部は 6月に発生するだろう。カナダの降雨量の改善は、春に乾燥した土壌に植えられ、雨がより日常的に始まる 6月まで乾燥に苦しむと予想されている多くの作物を救うのに間に合うはずだ。

南米の、天候と農産物生産の問題はもうすぐ終わる時期だが、北米、特に米国の問題はまだ始まったばかりであり、食料インフレの問題をさらに 1年間延長させる可能性がないとは言えない。







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