インドに歴史的な熱波が襲来しており、CNN は「3月は122年ぶりの猛暑」だと伝えています。
まだ 4月ですが、首都ニューデリーは 40℃に達しており、すでに 43℃を超える地域も出ている上に、今後、気温は地域的に最大で 50℃近くにまで上昇すると予測されています。
インドとその周辺国の気温
CNN
これにより、インドで大規模な停電が発生したことが報じられていますが、冷房需要と共に、ちょうどインドの経済が回復している中で、産業需要の電力が大きく増加している中で起きた停電のようです。
以下のように報じられています。
> インドの電力網のほとんど(約75%)が、化石燃料により電力を供給しており、残りが再生可能エネルギーとなる。現在の気温の上昇は、冷房需要の増加に伴って電力出力が増加することを意味する。
>
> インド政府は、電力網グリッドの崩壊を緩和するために、さまざまな州の工場の停電を強制した。グリッドのほぼ 42%が産業部門で構成されており、次に住宅が 24%、農業が 18%となっている。
>
> ロイター通信は、「熱波と経済活動の回復により、過去 40年近くで最も速いペースで電力需要が増加しており、今後数日でインドの停電は悪化すると予想される」と説明している。
>
> また、インドの石油精製業者は、月に数百万バレルを輸入するためにロシアと 6か月間の原油取引を交渉していることを明らかにした。 (zerohedge.com)
ここに、
> さまざまな州の工場の停電を強制した。
とありますように、インドでも、生産活動に問題が出ているようです。
現在、中国からのサプライチェーンが崩壊しつつある中で、インドを起点としたサプライチェーンにも影響が出る可能性があるのかもしれません。
最近は「食糧危機」について書くことが多いですが、インドの歴史的な熱波は、食糧問題にもかなりの悪影響となる可能性があります。
というのも、世界的に小麦の収穫が良くない状況が見込まれている中で、熱波がやってくる前までは、
「インドは小麦の大豊作の予想が立てられていた数少ない国のひとつだった」
のです。
この熱波でそれが怪しくなってきたことが報じられています。
皮肉なもので、アメリカなどは、「寒波」で小麦の植え付けができずに、収穫量等に問題が出る可能性があることを以下の記事で取りあげました。
[記事] アメリカでほぼ唯一の「春小麦とヒマワリ」のメジャー生産地であるノースダコタ州とサウスダコタ州が洪水と春の吹雪で、植え付けに入ることができず
In Deep 2022年4月29日
アメリカの一部では、4月の終わりの今でも吹雪に見舞われている時に、インドでは、「 50℃」などの気温に迫ろうとしている地域があり、その多くが「小麦などの穀倉地帯」だと報じられています。
もし、インドの小麦収穫に出た場合は、ほとんど救いようがない「小麦粉危機」がやってくることは避けられないのかもしれません。
なお、このインドの季節として異常な急激な気温の上昇もまた、ラニーニャ現象と関係している可能性があります。ラニーニャ現象の今後の影響については、In Deep の以下の記事で取りあげています。
[記事] ラニーニャ現象が終わらない : アメリカをはじめ世界の穀倉地帯の干ばつと異常気象がさらに厳しく継続する可能性。その先には「もはや食糧は存在しない」世界が
In Deep 2022年4月5日
熱波が続けば、干ばつの問題も出てくるでしょうが、仮にですが、今年のインドに例年のようなモンスーン(雨季)が訪れなかったりした場合、問題はさらに深刻となっていくかもしれません。
米 CNBC の報道をご紹介します。
インドの熱波が、人々の健康と重要な小麦の収穫を脅かしている
Heat wave in India threatens residents and crucial wheat harvest
CNBC 2022/04/26
数億人を危険な温度にさらしているインドの記録的な熱波は、この国の小麦の収穫に損害を与えている。専門家たちは、紛争に苦しむウクライナからの小麦の輸入をインドからの輸入で補おうとしている国に打撃を与える可能性があると言う。
インドの穀倉地帯である同国北部および中央地域の一部の州では、今週 48℃の最高気温が予測されており、専門家たちは、この熱波によるインド国内および国際的なさまざまな影響を恐れている。
インドのモディ首相は今月初め、米国のバイデン大統領に、ロシアのウクライナ侵攻によって生じた小麦不足を緩和するために、インドが小麦供給国として介入できると語った。
ロシアとウクライナは全世界の小麦輸出のほぼ 3分の1を占めており、国連食糧農業機関は、紛争により来年までにさらに 800万人から 1300万人が栄養不足になる可能性があると警告している。
インドの小麦の輸出は 3月に終了する年度で 870万トンに達し、インド政府は 2022年に記録的な生産レベルである約1億2200万トンを予測している。
しかし、インド気象局によると、この春は、インドで記録が始まって以来最も暑い 3月となり、熱波は小麦の収穫時期にまで及んでいる。
熱波はインドの主要な小麦栽培地域に特に激しく打撃を与えており、今週の気温は、ウッタルプラデーシュ州ラクナウで 44℃に達すると予測されている。 パンジャブ州チャンディーガルでは 49℃、マディヤプラデーシュ州ボパールでは 43℃となると予想されている。
ウッタルプラデーシュ州エタワ地区の小麦生産者である Devendra Singh Chauhan 氏は、米 NBC ニュースに、彼の畑での小麦の収穫量は通常の収穫量と比較して 60%減少したと語った。
「通常なら、3月は、気温が少しずつ上昇する理想的な気温環境ですが、今年は、32℃から 40℃に急激に上昇しました」と彼はメッセージで述べた。「このような不合理な気象パターンが続くならば、生産者たちはひどく苦しむでしょう」
クライメート・アクション・インターナショナルの上級顧問のハージート・シン氏は、この熱波はインドおよびさらに海外の人々に「恐ろしい」短期的および長期的な影響を与えるだろうと述べた。
「ウクライナで起きていることの影響で、小麦の価格は押し上げられ、多くの国がインドからの小麦の供給に頼っていますが、その中でのこの熱波の影響はインドをはるかに超えて感じられることになるでしょう」とシン氏は述べた。
デリーに本拠を置く政策研究センターの上級研究員であるハリッシュ・ダモダラン氏は、小麦が植えられた時期により影響が違い、早くに植えられた一部の地域では、収穫への最悪の影響から逃れる傾向があると述べた。
しかし、他の地域では、小麦の重要な「穀物充填」段階で高温になっているため、これは収穫量に影響を与える可能性があるという。
一方、国連食糧農業機関のエコノミストであるモニカ・トトバ氏は、この熱波が「インドで局地的な作物の損失を引き起こす可能性は高いが、世界市場全体への重大な影響があるとは確実にはいえない」と述べた。
トトバ氏は、インドにはまだ良好な小麦の備蓄があり、ウクライナの状況によるいくつかの調達不足を「少なくとも部分的に」補うことができるかもしれないと述べている。