欧州では次々とコオロギ製品が登場中。bugsolutely.com
わりとリスクは盛りだくさん
最近の発表ではないのですが、日本の内閣府が「コオロギ食」についての危険性を、欧州食品安全機関という機関の資料を引用して、発表していたことを知りました。
以下にあります。
欧州食品安全機関(EFSA)、新食品としてのヨーロッパイエコオロギについてリスクプロファイルを公表
内閣府 2018/09/21
発表したのは、2018年9月ですが、現在もウェブサイト「食品安全関係情報詳細」上にこのページは残されています。
内容はお読みいただくとわかると思いますが、ページにある「リスクプロファイルのまとめ」は以下のようになっています。
内閣府によるコオロギ食のリスクファイル
(1)総計して、好気性細菌数が高い。
(2)加熱処理後も芽胞形成菌の生存が確認される。
(3)昆虫及び昆虫由来製品のアレルギー源性の問題がある。
(4)重金属類(カドミウム等)が生物濃縮される問題がある。
寄生虫、カビ類、ウイルス、プリオン、抗菌剤耐性及び毒物類等の他のリスクは低いと判定された。数種のリスクに関しては、更なるエビデンスが必要であることを強調しておく。
「加熱処理後も芽胞形成菌の生存が確認される」とか「重金属類が生物濃縮される問題」などは、なかなか重い話ですが、ヨーロッパでは、すでに小麦粉などに添加され始めていまして、本格的に家庭の食卓にも登場していると思われます。
ヨーロッパでは、レストランなどでも「コオロギパスタ」や「コオロギピザ」のメニューも登場しています。
(報道) イタリアのレストランに「コオロギパスタ」が登場 (2023/2/15)
今回は、内閣府が引用した欧州食品安全機関が委託した研究論文の「結論」の部分をご紹介させていただこうと思います。
スウェーデンの複数の大学や機関の研究者による論文で、以下にあります。
(論文) 新しい食品: ヨーロッパイエコオロギのリスクプロファイル ( Acheta Domesticus )
Novel foods: a risk profile for the house cricket (Acheta domesticus)
この論文の「結論」部分です。
新しい食品: ヨーロッパイエコオロギのリスクプロファイル
Novel foods: a risk profile for the house cricket
欧州食品安全機関 2018/07/06
結論
入手可能な科学的データによると、食品としてのコオロギに関して、リスクが低いと思われるものについては、ウイルス、プリオン、菌類、寄生虫が危険性は低いと見なされた。
中程度のリスクとしては、高い微生物負荷、胞子形成細菌と、そして胞子形成細菌は熱処理後にも再増殖すること、重金属の生体内蓄積(カドミウムなど)、およびコオロギのアレルギー誘発性があり、これらは中程度のリスクと見なされる。
特定されたデータのギャップをカバーするために、人間が消費することを目的とした食品としてのコオロギの安全性を評価するには、さらなる研究が必要だ。たとえば、食用コオロギに含まれるマイコトキシンまたは重金属やダイオキシンなどの化合物などだ。
食品としてのコオロギは、他の食品と比較して高い微生物負荷を示す。したがって、コオロギを含む昆虫の特定の衛生および安全基準値を作成する必要がある。
リステリア・モノサイトゲネス (菌)やサルモネラ属菌などの一般的に検出される食品由来の病原性細菌は、人間が消費することを目的としたコオロギでは、これまで報告されたことがないか、ほとんど報告されていないが、しかし、HTS 技術の使用により、コオロギの微生物叢の説明が可能になり、分類学的にクロストリジウム属、リステリア属に分類される配列が検出された。 関連する食品由来の病原体を含むバチルス種もだ。
(※) HTS技術とは、多くの化合物について生化学的あるいは物理化学的な評価を実施し、標的分子に対して目的の活性を持つ化合物を短期間で効率的に選抜する方法だそうです。
ブランチング (短時間加熱したのちに冷やす調理法)、ボイル、フライなどの熱処理は、食用昆虫の微生物量を減らすことができる。
コオロギまたはコオロギ由来製品に熱処理は必須で、製品を市場に出す前に実施する必要がある。
さらに、衛生基準と食品安全基準の両方に準拠した微生物負荷を確保するために、消費前に煮沸することを推奨する。しかし、そのような処理は、バチルス属、およびクロストリジウム属の胞子を殺すのに十分ではないかもしれない.。
重金属は、コオロギが飼育段階でこれら重金属にさらされると、推定される化学的リスクとして特定される。重金属の中では、カドミウムの生物蓄積が主要な懸念事項として特定されている。アルミニウム、クロム、ヒ素など、他の重金属に関する入手可能な情報は少なく、より多くのデータが必要だ。
コオロギは、エビ、カニ、ロブスターなどにアレルギーを持つ消費者たちにアレルギー反応を引き起こす可能性がある。異なる種間で共有されるホモログタンパク質 (類似した成分のタンパク質)が、汎アレルギー反応を引き起こす可能性があるためだ。
トロポミオシン、 GAPDH 等は、アレルギー誘発性が高いと特定されている。アレルゲンの可能性がさらに研究を必要とするヘキサマリン B1 は、特定のコオロギアレルゲンとして記載されている。安全上の理由から、コオロギおよびコオロギ由来の食品にはラベルを付けて、アレルギーの影響を受けやすい消費者の意識を高める必要がある。
ここまでです。
トロポミオシンとか GAPDH とか、ヘキサマリン B1など、知らない単語がたくさん出てきますが、以下のようなもののようです。
・トロポミオシン → エビやハウスダスト中のチリダニ類等に含まれるタンパク質
・GAPDH → 酵素の一種のようです。
・ヘキサマリン B1 → コオロギ食に特有のアレルギー成分のようです。
このヘキサマリン B1を調べていましたら、2016年の論文「コオロギアレルギー」 (Allergy to crickets)という、そのもののタイトルのものがありました。
概要には以下のようにあります。
(論文「コオロギアレルギー」より)
> コオロギアレルギーは、イナゴやバッタに対するアレルギーよりも重症度が低く、一般的ではない。コオロギとバッタのアレルゲンの間には部分的な交差反応性が存在する。コオロギアレルゲンはタンパク質性化合物だが、その性質は十分にわかっていない。
>
> アルギニンキナーゼとヘキサメリン 1B が役割を果たしている可能性がある。職業性アレルギー、すなわちコオロギコロニーの飼育および繁殖に携わる職員たちのアレルギーは、コオロギアレルギーに関する報告の大部分の主題となっている。
>
> コオロギを頻繁に取り扱うと(例えば、魚の餌として)、一種の職業性アレルギーと見なされるアレルギーを引き起こす可能性がある。 コオロギは食用昆虫であり、世界の多くの地域で広く消費されているが、それにもかかわらず、コオロギに対する食物アレルギーは比較的まれではあるようだ。 (stor.org)
コオロギと繰り返し接すると、アレルギーを引き起こしやすいということのようです。
ということですと、繰り返し食べるのも、人によってリスクがあることなのかもしれません。
そのうち、先ほどの内閣府のページが消えてしまうかもしれないとも思いまして、ご紹介させていただいた次第です。