農作物は世界中から日本に来る
プリオン病と「日本人の関係」については、少し前に In Deep でいくつかの記事を書いたことがありました。
[記事]日本人だけが持つ「唯一の特性」と、プリオン病による民族絶滅の関係
In Deep 2024年1月30日
簡単にいえば、世界で「日本人だけが、プリオン病の発症を防ぐ変異を持っていない」という事実についての話でした。
日本人は感染したばあい、プリオン病を発症しやすいと。
さて、先日、米ミネソタ大学のニュースリリースで、
「植物は土壌からプリオンを取り込み、それを食べた動物に感染させる可能性がある」
ことを見出した研究を紹介していました。
今、アメリカでは、「ゾンビシカ病」とも呼ばれているシカ慢性消耗病(CWD)という病気が急激に拡大しています。
[記事]米国でプリオン病の一種である「ゾンビジカ病」の感染範囲が拡大中
BDW 2023年12月28日
これらが、どのように感染を拡大させているのかは不明ですが、このミネソタ大学が紹介していたこの研究ですと、
「植物がプリオンの感染を拡大させている可能性がある」
ということになります。
シカは草食ですので、プリオンに汚染された土壌で育った植物からの感染という経路があるという可能性です。
気になったのは、以下の下りでした。プリオンを研究している研究者の言葉です。
「農業の場合、植物は明らかに大陸、そして世界中を移動しています。したがって、慢性消耗病が発生すると考えられていない場所にいるときに、これらの植物がプリオンを新しい場所に運んだり、動物や人間に曝露したりする可能性があるという懸念が生じているということかもしれません」
日本は、小麦やトウモロコシなど多くの食糧が、アメリカから輸入されています。そのアメリカでは、現状ではシカだけの病気とはいえ、プリオン病が拡大しています。
このあたりが気になった次第ですが、ミネソタ大学のニュースリリースをご紹介します。
植物は研究室の土壌からシカ慢性消耗病の原因となるプリオンを取り込む可能性がある。それを食べた場合はどうなるのか?
Plants can take up CWD-causing prions from soil in the lab. What happens if they are eaten?
CIDRAP 2024/02/23
クリストファー・ジョンソン博士は、プリオンに汚染された植物を与えられた実験用マウスが神経変性疾患を発症するかどうかの研究に着手したとき、植物は小さなプリオンクラスターしか取り込まないと予想したが、それらはシカや他の動物のプリオン病に特徴的な大きなクラスターを吸収したことを見出した。
プリオンは、シカやヘラジカなどのシカ慢性消耗病(CWD)、ヒツジや、ヤギのスクレイピー、ウシのウシ海綿状脳症(BSEまたは狂牛病)、人間のヤコブ病であるクロイツフェルト病などの致命的な神経変性疾患を引き起こす、感染性のミスフォールドタンパク質だ。
シカ慢性消耗病の場合、動物が感染すると、直接接触、唾液、角ビロード、尿、糞便、死骸などを介して病気が広がる可能性があり、プリオンは環境中に何年も残留する可能性がある。動物が一度暴露されると、宿主の中での潜伏期間、つまり症状が現れるまでの期間は最長 2年と考えられている。
しかし、シカ慢性消耗病が北米、ヨーロッパの一部、アジア全域に急速に広がっていることを考えると、科学者らは、シカ慢性消耗病が汚染された植物の摂取など、別の経路でも感染しているのではないかと疑問を抱いている。
プリオンは植物内で感染力を維持する
研究者たちは 1970年代から植物へのタンパク質の取り込みを実験してきたが、 12月に iScience に掲載されたジョンソン氏たちの実験室研究は、それらの研究をさらに一歩進めたものだ。
研究者たちは、アルファルファ、大麦、およびターレクレスなどと呼ばれるカラシ科の小型植物であるシロイヌナズナは、いずれも汚染土壌から地上組織に十分な量のプリオンを蓄積し、その植物組織を摂取したマウスがプリオン病を発症することを実証した。
「植物の表面が汚染されるかどうか、あるいはプリオンが蓄積する可能性があるかどうかを調べた以前の研究があり、その可能性はあるようでした」とジョンソン氏は語った。
「私たちの研究は、これらの実験室条件下では、汚染された植物を摂取すると感染症を引き起こす可能性があることを示しており、これは野生動物の保護、農業、公衆衛生に影響を及ぼします」
UTヘルス・ヒューストンのマクガヴァン医科大学神経学准教授であるサンドラ・プリツコウ博士は、プリオンは植物内で複製または生殖できないため、植物は、ホストというより、潜在的なキャリアであると考えられるべきであると述べた。
2015年に Cell 誌に発表されたプリツコウ博士の研究結果は、脳、尿、または糞便で希釈されたプリオンが小麦草の根や葉に結合し、取り込まれる可能性があることを示した。
彼らはまた、感染した脳物質の中で培養された汚染された草を食べた野生型ハムスターがその後感染したことも示し、このことは「病気の水平感染における環境プリオン汚染の役割の可能性」を示唆していると著者たちは述べている。
ジョンソン氏は以下のように述べる。
「農業の場合、植物は明らかに大陸、そして世界中を移動しています。したがって、慢性消耗病が発生すると考えられていない場所にいるときに、これらの植物がプリオンを新しい場所に運んだり、動物や人間に曝露したりする可能性があるという懸念が生じているということかもしれません」
ミネソタ大学の CIDRAP のシカ慢性消耗病にタイする緊急時対応計画プロジェクトのメンバーでもあるスチュアート・リヒテンバーグ博士は、プリオンの挙動を考えると、次のような可能性があると指摘した。
「作物中のプリオンの除去率は低く、栽培作物が感染力を持つのに十分な量のプリオンを取り込んだ場合、それらのプリオンは、その食料品や飼料、あるいは保管されていたものがある限り、感染性を維持するでしょう」
「農家がアルファルファの畑を栽培し、それを動物の飼料として使用し、1~2 シーズン保存した場合、その草、アルファルファ、干し草を刈った後でも、動物に与えると依然としてプリオンに感染する可能性があるでしょう」
作物へのプリオン取り込みの修復(プリオンの除去)は比較的未開発の領域だ。
例えば、漂白剤などの高濃度の化学物質は、ホットスポットに焦点を当てることができれば効果があるが、「しかし、例えばトウモロコシ畑に大量の漂白剤を噴霧することには明らかに問題がある」とリヒテンバーグ博士は述べる。
しかし、クレイトン大学の教授で医学微生物学・免疫学部の教授であるジェイソン・バーツ氏は、既存のシカ慢性消耗病の株の数を含め、多くのことがまだ不明であると述べ、株の普遍的な定義や、ある株が他の株と異なる点は存在しないと指摘した。
ジョンソン氏は、将来の研究では、模擬システムの使用を通じて、または安全な農業環境での反芻動物のいずれかを介して、反芻動物の消化器系におけるプリオンの取り込みを調べる必要があると述べた。
その他の興味深い分野としては、取り込みの動態、植物内でのプリオンの持続時間、花粉や果実におけるプリオンの蓄積などがある。