Radioactivity Environmental Monitoring
土壌などへの環境の影響はともかくとして
5月19日、ロシアの安全保障会議書記のパトルシェフ氏という方が、ロシア軍がウクライナにある劣化ウラン弾の弾薬庫を破壊した結果、
「放射能に汚染された雲がヨーロッパ西部に向かっている」
と述べたことが報じられていました。これは、日本でも、日本経済新聞が伝えています。
(報道) 「放射能汚染の雲が欧州へ」 ロシア高官が脅しか (日本経済新聞 2023/05/19)
これは最初、ロシアのメジャー通信社である RIA 通信が報じたものです。
以下は抜粋です。
パトルシェフ氏「ウクライナ軍のウラン弾のせいで放射線がヨーロッパに迫っている」
Патрушев: на Европу надвигается радиация из-за боеприпасов ВСУ с ураном
ria.ru 2023/05/19ロシア安全保障会議書記のニコライ・パトルシェフ氏は、スィクティフカルでの会合で、西側諸国がウクライナに供給した劣化ウラン弾の破壊により放射性雲が出現し、その雲はすでに欧州に向かっていると述べた。
同氏は、5月18日、ジョー・バイデン米国大統領が G7サミットに出席するため広島に到着し、米国人が信じている「共通の民主的価値観」を守ることも含めた事実に注目を集めた。パトルシェフ氏は「米国の圧力を受けて、西側諸国の首脳らもウクライナ支援について話し合うだろう」と述べた。
同氏は、「アメリカ人は歴史上、このようにして国々を『助けた』ことが一度ならずある」と指摘した。「ウクライナも『助けられ』、劣化ウラン弾を供給した」。
ウクライナの破壊により、放射性雲が西ヨーロッパに向かった。そしてポーランドでは放射線量の増加がすでに記録されている」と氏は述べた。ロシア連邦安全保障理事会が明らかにした。
そもそも、劣化ウランを含む軍需物資の貯蔵所が攻撃された場合に、それにより「放射性の雲」が発生するのかどうか自体が、理屈として不明な感じでもありますが、ただまあ、「近隣への環境には、多少悪い可能性もある」ということはあります。重金属みたいなんですよね。
(劣化ウラン - Wikipedia より)
> 劣化ウランは重金属である。したがって、他の重金属と同様に重金属中毒の原因となる。主に腎臓の障害を引き起こす。
>
> なお、劣化ウランの毒性は鉛や水銀よりも低く、砒素と同程度である。
「口に入ったりすると、あまり良くないかもしれない」と思いますが、放射性の雲を形成する可能性はあるようには見えないですが、複雑なプロセスがあり得るならわからないです。
ところで、なぜ、このことを記事にしようと思ったのかといいますと、日本でも、「この放射線のことを気にしている人たちがいる」という話を聞いたのです。
さすがにそれはもう、どんな状況でもあり得ないことで、たとえば、大西洋でロシア軍の核兵器が炸裂しても、(津波の影響は別として)日本への放射能の直接的な影響は考えられないように (後述しますが、核爆発の放射能には規則正しく減衰する時間的ルールがあります)、そのような放射能への「心配」は現実なものではありません。
今の社会は、ただでさえ、いろいろと不安要素が渦巻いている世界ですので、その中から「あり得ない心配を自分の中から削除していく」というようにしないと、本当にメンタルがおかしくなってしまいかねないです。コロナのパンデミック中のヒステリックを思い出せば、今は、どんな要素からでも、新たなヒステリーが作られてしまう時代である可能性があります。
それはともかく、ヨーロッパの放射能レベルが変化しているかどうかは、データを見てみれば、ある程度わかると思います。リアルタイムで放射線のモニタリングを表示しているウェブサイトはいくつかありますが、ヨーロッパの話ですので、欧州委員会の公式サイトを見てみます。
以下にあります。
欧州委員会 放射能環境モニタリング
Radioactivity Environmental Monitoring
このサイトでは、1週間単位でのヨーロッパの放射線観測値を提示していますが、
・5月20日 - 27日 (ロシア高官の発表の翌日からの7日間平均)
と、
・5月11日 - 18日 (武器庫の爆発前の 7日間平均)
を比較してみます。顕著な変化があるなら、何か起きたということですし、変化が見られないなら、特別なことは起きていない可能性が高いということになります。
見て下さるとわかると思うのですが、ヨーロッパは、そもそもの日常の放射線量というのが結構すごいものです。
EU公式サイトによるヨーロッパの放射線レベルの比較
Radioactivity Environmental Monitoring
細かい部分では日々変化しますが、全体としては基本的に変化はないように見えます。
拡大しても同じです。
ちなみに、話はやや逸れますが、劣化ウラン弾ではなく、「核兵器そのもの」の場合、
「放射線の量は、7時間ごとに10倍ずつ減少する」
という「セブン-テン・ルール」というものがあります。
これは実際に核攻撃を受けた場合に冷静さを保つために覚えておいていい法則ですが、核爆発が起きた後、「 7時間で 10倍ずつ放射線量は減少する」のです。つまり、2日後には放射線量は、約 100分の 1の量になります。
もちろん、放射性降下物(いわゆる死の灰)の危険性はこれとはまた異なりますが、セブン-テン・ルールは、核攻撃を受けた場合、そこが爆心地でなければ、対応方法を考慮する基準となる数値です。
このあたりは、もう 13年前の記事ですが、以下の In Deep の記事に、アメリカのサバイバル系ウェブサイトの記事を翻訳しています。
核攻撃後の 2日間 (48時間)をどのように凌ぐか、などが書かれています。
[記事] 核攻撃を受けた際の対処法
In Deep 2010年11月01日
今の世は、海外からの放射線よりも、身近な「二価のシェディング」のほうが厄介かもしれません (私は、リル・シェディングと呼んでいます。前より体感では強い感じ)。
妙に喉が痛い方などいらっしゃいませんか?
なお、参考までに、ヨーロッパへの放射能の雲の飛行について否定していたイタリアの報道をご紹介して締めさせていただきます。
ロシアの言葉にもかかわらず、今日ヨーロッパには放射能の雲はない
ITALY24 2023/05/19
ロシア連邦安全保障会議書記のニコライ・パトルシェフ氏は、ロシアが劣化ウランを使用した兵器を含む西側諸国からの兵器の貯蔵庫を爆撃した跡、放射性雲がヨーロッパに向かっていると述べた。
そのような可能性はあるのだろうか?
放射性雲は、決して軽視してはならないと警告されているが、比較検討する必要がある。
RIAノーボスチ通信社が引用したパトルシェフ氏の言葉によると、ポーランドではすでに放射能レベルの上昇が報告されているという。しかし、ポーランド国立原子力庁はパトルシェフの言葉を虚偽と定義し、この意味では危険はないと説明している。
科学的に確かな事実から始めれば、核融合と核の安全性に関するエネア省のアレクサンダー・ドダロ局長は、劣化ウランは重金属であり、空気中の放射能現象の原因となることはあり得ないことを確認している。
重金属として、これに放射線学的プロファイルはないと局長は言う。確かに「劣化」と呼ばれるのは、ウランそのものよりも放射性成分が弱いためであり、また、ウランは自然界の水中や地中にすでに存在している。
そこで、事実に戻る。劣化ウランを含む軍需物資の貯蔵所が攻撃されたとしても、空中を運ばれる雲のレベルでも、地元地域でも、その影響はあり得ないと確信できる(もちろん劣化ウランの爆発自体の影響は別として)。
チェルノブイリの事故の時代と異なり、今日は少なくとも、この地域には 2 つのリアルタイム放射線検出ネットワークが存在する。
1つ目は欧州委員会共同研究センターのものだ。これは、ヨーロッパだけでなく点在する制御ユニットとセンサーによって継続的に更新されている。
もう一つの情報源は、最もデリケートな国際核問題を管理する国際機関である IAEA だ。その IAEAからの信号もない。