ミツバチの壊滅的な減少の理由
今に始まったことでもなく、世界のどこでもミツバチの大量死や大量失踪が見られているのですけれど、韓国でも著しいミツバチの大量死が起きていることを報道で知りました。
韓国の報道には以下のようにあり、かなりの数とはいえます。
> 2022年9月から 11月に 100億匹のミツバチが死に、2023年初頭に 140億匹のミツバチが死んだ。
そして、韓国の首都ソウルでは、ミツバチの大量を防止するために、
「ネオニコチノイド系農薬の使用を禁止する」
と発表しました。
そして、今回の記事は、「このやり方ではミツバチの大量死を食い止めることはできない」ということを説明するためのものです。
まず、韓国の報道は以下のようなものです。
ソウル市、公園や街路樹でのハチ毒性殺虫剤を禁止
Seoul bans bee-toxic pesticides in parks, roadside trees
koreaherald.com 2024/05/20
ミツバチを保護し、より健全な都市環境を促進する取り組みとして、ソウル市は 5月20日、公園や街路樹でのネオニコチノイド系殺虫剤の使用を禁止すると発表した。
ネオニコチノイド系殺虫剤とミツバチの死亡との相関関係はまだ調査中であるが、ソウル市は、より有害性の低い代替農薬への切り替えを決定する理由として、環境に対する潜在的なリスクを挙げている。
同市公園レクリエーション局長のイ・スヨン氏は、「化学農薬の使用を最小限に抑え、環境に優しい害虫駆除方法を拡大し、健全な都市生態系に貢献する」と述べた。
グリーンピース・コリアと安東国立大学が昨年 5月に共同で発表した報告書によると、 2021年の冬に韓国のミツバチのコロニーから 78億匹のミツバチが突然死んだ。
さらに、2022年9月から 11月の間に 100億匹のミツバチが死に、2023年初頭には 140億匹のミツバチが死んだ。
政府は、ミツバチに有害な可能性がある殺虫剤の代わりに、害虫駆除のために農村開発局に登録されている最も毒性の低い殺虫剤を使用すると発表した。
市政府は新たな禁止措置の順守を確保するため、現地監視も実施する。
一方、ソウルの吉東生態公園、ソウル昌浦公園、南山公園、西ソウル湖公園の 4か所は無農薬地帯に指定され、環境に優しい害虫駆除方法で管理される。
ここまでです。
何となく順当な措置に見えるかもしれません。
しかし、予測だけさせていただけば、
「これはミツバチの大量死には、ほぼ役に立たない」
と見られます。
前例がいくつもあるのです。
たとえば、フランスは 2018年に、ネオニコチノイド系農薬5種(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム、チアクロプリド、アセタミプリド)の作物への使用を禁止するという EU で最も強い措置の法律を施行しました。
その後どうなったか。
「ネオニコチノイド系農薬を禁止した後も、フランスは世界最大のミツバチの大量死に見舞われたまま」
という状況となってしまいました。
以下は、ネオニコチノイド系農薬を禁止した翌年の報道からの抜粋です。
EUは、ミツバチを標的とする農薬の使用を徐々に制限してきており、昨年フランスは主要 5種すべてのネオニコチノイドを禁止する最初のヨーロッパの国となった。
しかし、状況は改善していない。
養蜂家連合の会長は、ネオニコチノイド以外のあらゆる農薬や殺虫剤もミツバチに脅威をもたらしている可能性が高いと述べる。養蜂家連合は、伝統的な農業方法など、持続可能な方法を模索していかなければならないと考えている。
france24 2019/06/27
これに関しては、こちらの記事に全文があります。
一応書いておきますと、「農薬が悪くない」と述べているのではありません。ネオニコチノイド系農薬は神経毒性をもつ殺虫剤ですので、あらゆる生物に良いわけがないです。それは当たり前です。
そうではなく、
「ネオニコチノイド系農薬の使用を完全に禁止しても、ミツバチの大量死はまったく減少しなかったという事実がある」
ということが重要だと思うのです。
結果としてダメなら、他を考えなければならない。
つまり、ミツバチの大量死には「何か他の理由がある」はずなのです。
私個人の見解としては、「ミツバチたちは餓死している」と考えています。
一般的に、ミツバチは蜜や花粉を食べて生きていると思われていますが、2019年に、「そうではない」ことが研究でわかりました。
ミツバチは、花に生息する「微生物(ダニや細菌を含む)」を食べていたのです。
つまり、「肉を食べている」のです。幼虫もです。
以下の記事に、この研究について述べたサイエンティフィック・アメリカンの記事を翻訳しています。
(記事)[衝撃] ミツバチは花の蜜や花粉を食べているのではない。彼らは食糧としての微生物がいなければ生きていけない「肉食」であることが判明。そのことから、ハチの大量死が「殺菌剤」と関係する可能性が浮上
In Deep 2019年8月31日
2019年8月23日のサイエンティフィック・アメリカンより
Scientific American
研究では、微生物が、ミツバチにとって非常に重要な栄養源であることがわかり、殺菌剤などで微生物がいなくなると飢えてしまうのです。
農業ではカビや病原菌などの微生物を排除するために殺菌剤を用いますが、殺菌剤が使われると、ミツバチの栄養源である微生物が花の中にいなくなってしまいます。
結局、飢えて衰えるか、最悪餓死してしまう。
ミツバチの幼虫へも食糧を運べなくなるため、幼虫も餓死します。したがって、コロニーごとの全滅という事態に結びつきやすい。
農業では、カビや細菌などを防ぐために殺菌剤が広く使われています。
殺菌剤の使用についての是非については何も言えないにしても、これが世界中のミツバチを殺している原因のひとつである可能性がとても高いと私は思っています。
自然環境というものには、太古からずっと、常に「カビや雑菌やダニを含む微生物が生息してきた」ものであり、その環境の中でミツバチも生きていたわけですが、その自然の環境から微生物が「排除」されたことによって、ミツバチの食べ物が消えていっている。
ミツバチのエサとなる微生物の減少を気候変動のためとする主張もありますけれど、馬鹿げています。気温が上下に 1、2度ふれたからといって、自然界の微生物が消えることなどありません。
気温の変化によって微生物が消滅するような気温の大変動なら、そもそもミツバチ自身がその気温の変動で死んでいます。
気候変動は関係ありません。
もちろん、ネオニコチノイド系農薬もミツバチの健康を悪くはしていると思いますが、餓死を導いているのは殺菌剤です。
現状の農業のスタイルが続いていく限り、ミツバチは今後も減少し続けると見られます。
現在の年ごとの減少率からは、「2035年までに地球上のすべてのミツバチが消える」という可能性について述べる科学者もいますが、それについては何ともいえません。
受粉は、世界の農業生産に非常に重要なものです。受粉を媒介するのはミツバチだけではないですが、しかし、ミツバチが世界の食糧生産に重要な受粉の媒介存在であることは確かです。
地球の農作物の約 4分の 3 が生物による受粉に依存していて、世界で 115種類ある主要な食用作物のうち、87種類が受粉動物によって成り立っています。
極端なことをいえば、ミツバチがいなくなれば、世界の半数以上の種類の人間の食糧作物が消えることになります。