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気象条件とウクライナ戦争が重なり
先日、ロシア政府が、これまで、ウクライナへの船舶入港を認めていた「黒海協定」の履行を停止すると発表したことで、アメリカの小麦先物価格は、その日、急騰しました。
・ロシアによる「黒海協定の履行停止」を受けて、小麦先物価格が8%超の急騰 (2023/07/20)
さらには、その後、ロシアは、穀物施設があるウクライナの港を空爆し、ロイターは、「6万トンの穀物が失われた」と報じています。
これに報復するために、「ウクライナがロシアの穀物貯蔵庫をターゲットにする」可能性さえ言われ始めています。
これが行われた場合、ロシアからの小麦の輸送も、ウクライナからの小麦の輸送も、どちらも大きく損なわれる可能性が出てくることになります。
ロシアとウクライナは、2022年以前は、世界の小麦供給の大きな比率を持っていた地域ですが、それがやや崩壊しつつあるようです。
そんな中で、「他の小麦生産地域の状況はどうなのだろう」と思っていたのですが、オランダのラボバンクのアナリストが、カナダの報道に対して、
「今年、世界は小麦不足に陥る可能性がある」
と述べたことが報じられていて、その報道には、世界各地の小麦生産地の状況が簡単に述べられていましたので、ご紹介したいと思います。オランダのラボバンクは、農業組織向けの大規模金融機関で、日本の農林中央金庫に相当するものです。
全体としていえば、「どの小麦生産地も状況が悪い」という流れとなっているようです。
2022年のウクライナ侵攻までの、世界の小麦輸出量のトップ10は以下の国や地域でした。この上位の、ロシア、EU、オーストラリア、カナダ、アメリカの状況が良くないようです。
世界の主要な小麦生産国のひとつであり、日本も小麦の輸入に大きく依存しているアメリカでも冬小麦が歴史的な不作であることが伝えられていました。
[記事] アメリカの冬小麦の収穫が「記録されている歴史の中で最悪」となる見込みが示される
地球の記録 2023年5月10日
コメのほうもあやうくなっていまして、世界最大のコメ輸出国であるインド政府が、「コメの完全な輸出禁止を検討している」と伝えられています。
[記事] 世界最大のコメ輸出国であるインドが「コメの完全な輸出禁止」を検討
地球の記録 2023年7月16日
小麦の世界の生産状況について、カナダの農業メディアの報道をご紹介します。
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今年、世界は小麦不足に直面するかもしれない
World may be facing wheat shortage this year
producer.com 2023/07/21
小麦価格は何年も比較的安値で抑えられていたが、いよいよ、そうではなくなっていく可能性があるとアナリストは言う。
オランダのラボバンクの世界穀物・油糧種子ストラテジストであるスティーブン・ニコルソン氏は、一連の供給側の脅威が事態を刺激的なものにしていると述べた。
現在、カナダの畑では作物が枯れている。
カナダの市場分析企業であるマーケッツファーム社は、今年のカナダの全小麦生産量を 3,040万トンと予測しているが、これは、アメリカ農務省の最新の予測である 3,500万トンを大幅に下回っている。
米国の冬小麦の収穫は大幅な期待外れであり、同国の春小麦の収穫も、乾燥条件により苦戦している。
アルゼンチンは最近、ひどい作物収穫量を記録し、新たな作物も厳しいスタートを切っている。
欧州連合の状況は当初良好に見えたが、暑さと乾燥が進み、収量は減少している。
「オーストラリアの今年の収穫量はつまらないものになるだろう」とスティーブン・ニコルソン氏は、サスク州ランガム近郊で開催された Ag in Motion ショーでのインタビューで語った。
エルニーニョ現象はインドや東南アジアに大混乱をもたらす可能性があり、中国では収穫時の大雨による品質の問題が発生している。
「おそらく、今年の世界の小麦の収穫量は誰もが思っているほど大きくはならないだろうという結論を導き出さなければなりません」とニコルソン氏は語った。
マーケッツファーム社のアナリストであるブルース・バーネット氏も、ニコルソン氏と同じ結論を導いた。
バーネット氏は AIM 市場見通しプレゼンテーションの中で、アメリカ農務省が 2023年から 2024年にかけて世界の主要輸出国の小麦最終在庫量を 5,470万トンと予測していることを指摘した。これは昨年より 450万トン減少している。
しかしバーネット氏は、アメリカ農務省の予測生産量は、カナダに関して 500万トン多すぎ、オーストラリアで 300万~400万トン過大評価されていると感じている。
アルゼンチンの新品種小麦の出足は悪くなっているが、アメリカ農務省は同国の大幅な生産の回復を予測している。
バーネット氏は、「市場は、小麦が大量にあるので、各地の不作は問題ではないかのように反応している」と述べた。
「しかし実際には、(各地の生産の)状況は非常に緊迫しており、現在の楽観的な状況をひっくり返すのにそれほど時間はかからないだろう」
ニコルソン氏は、北米では製粉用の小麦作物の収穫量が困難に陥っているため、自分が小麦粉の購入者だったら不安になるだろうと語った。
いくらか慰めのある話としては、7月14日時点で米国の硬質赤色冬小麦のタンパク質含有量が平均 13.2パーセントで、平均を上回っていたという事実くらいだろう。
しかし、硬質赤色冬小麦の収穫量自体が少ないため、より多くの春小麦をブレンドする必要がある。
バーネット氏は、アメリカ農務省は 2023年から 24年のウクライナ小麦輸出量を 1100万トンと予測しているが、ロシアが黒海穀物イニシアチブから撤退した今ではそれは疑わしいと述べた。
「他のルートを通じて輸出する機会は限られたものしかない」とバーネット氏は言う。
ウクライナは、ポーランドを経由してバルト海を経由したり、ルーマニアの黒海の港を経由して穀物を輸送することができるが、しかし、これらの国々は小麦の収穫量が多く、ウクライナ産小麦を港経由で輸入することに興味がない。
バーネット氏は、ウクライナの輸出量は農務省の予測を 200~ 300万トン下回るだろうと考えている。
「もし、ロシアが実際にミサイルを飛ばすことに取り組めば、ウクライナの輸出能力すべてが失われるかもしれない」とバーネット氏は言う。
ウクライナがロシアの港を標的にし始める可能性もあり、そうなればロシアの小麦を世界中に輸送する能力が妨げられる可能性がある。
「小麦市場はこれに伴うリスクをまったく織り込んでいない」とバーネット氏は語った。