世界で最も古い歴史を持つ科学誌サイエンティフィック・アメリカンが、「もし米国が核攻撃を受けた場合、最も被害の大きな州と、比較的被害が少ないと予測される州」のマップを公開していました。
このマップが、少なくとも私には意外な感じで、「何となく」というレベルの感覚的な意識としては、「人口の多い地域のほうが被害が大きいのではないか」というように漠然と思っていましたが、専門家たちの予測はそれとは異なるものでした。
以下が想定される被害状況のマップです。色が濃いほど人的な被害が大きいと予測されています。
米国が核攻撃を受けた際の人的被害状況の予測マップ
cientificamerican.com
最も色が濃いのは、モンタナ州(MT)、ノースダコタ州(ND)、ネブラスカ州(NE)などとなっていますが、どうしてかというと、
「これらの場所には、450基の弾道ミサイルサイロが保管されている」
ためだそうです。
つまり、軍事的なターゲットになりやすい地域だということのようです。
記事には、
> これらのサイロのうち 2基を爆発させるだけで、TNT火薬換算で10万トンに相当する爆発を引き起こす可能性がある
と書かれていますが、一般的に、広島に落とされた原爆のエネルギーは、「TNT火薬換算で 16キロトン」とされていますので(広島平和記念資料館より)、「 10万トン」というのは、すさまじいエネルギーとなります。
弾道ミサイルサイロが保管されている場所を攻撃することで、エネルギーの相乗効果が生まれるということのようです。
対して、アメリカの西海岸は比較的被害が少ないとされていますが、これには、基本的に大きな気流は東から西に移動していることも関係しているのかもしれません。
それでも、研究者たちは、「核攻撃の際に、実際には安全な地域など存在しない」と述べています。
まあ、そうでしょうね。
ちなみに、2022年に米ラトガース大学の研究者たちが、「核戦争は世界的な飢饉を引き起こし、数十億人を殺すと予測される」とした結論を導いたことについて、In Deep の記事で書いたことがありますが、核戦争後は、日照状況の悪化により、農業生産が世界規模で非常に悪くなると予測されています。
このサイエンティフィック・アメリカン誌の記事を取り上げていたニューヨーク・ポストの記事をご紹介します。
核攻撃に対して他の国よりも安全な国がある - この驚くべきマップは主要な標的を明らかにする
Some states are safer than others in a nuclear attack - this startling map reveals prime targets
NY Post 2024/12/09
ニューヨーク州ブルックリンの住宅街の外のレンガの壁に立てられた核シェルターの標識。
中西部での核攻撃による放射線被曝の前に、住民は少なくとも 4日間は避難しなければならない。
マサチューセッツ大学アマースト校の研究者たちは、放射能が米国中に広がる経路を含む、核降下物のタイムラインを予測するために風と気象のパターンを調査した。
サイエンティフィック・アメリカン誌によると、450基の弾道ミサイルサイロが保管されている中西部、特にモンタナ州、ノースダコタ州、ネブラスカ州が主な標的となる可能性が最も高いと専門家たちの意見は一致している。これらのサイロのうち 2基を爆発させるだけで、TNT 火薬換算で 10万トンに相当する爆発を引き起こす可能性があるからだ。
核攻撃による放射線中毒に曝露すると、爆発後 4日以内に推定 3億人のアメリカ人が確実に死亡することになる。
サイロ州が壊滅した後、カンザス州、アイオワ州、サウスダコタ州、ワイオミング州の大部分とコロラド州の一部の住民は放射線被曝により数週間以内に死に至るだろう。
対照的に、カリフォルニア、ワシントン、オレゴンの西端の 3州では、核放射性降下物の影響は最も少なく、ほとんどの地域では、攻撃後 4日以内に最も安全な許容レベルを超える放射線被曝はほとんど発生しないと予測されている。
一方、東海岸は、メイン州からフロリダ州に至る米国北部の平原地帯、さらにはアラバマ州、テネシー州、オハイオ州などの内陸州にあるこれらのホットスポットから遠いため、核攻撃に対して比較的安全であることが証明された。
しかし、専門家は核攻撃に対して「真に安全な場所はどこにもない」と主張している。
「比較的『小規模』な核戦争でも、核の冬による飢餓を引き起こし、世界中で少なくとも 10億人が死亡するだろう」と、マサチューセッツ大学アマースト校の平和と民主主義のためのエルズバーグ・イニシアチブのディレクター、クリスチャン・アピー氏は述べた。
同氏は最近、ニューズウィーク誌のインタビューで、サイエンティフィック・アメリカン誌の報告について語った。
低レベルの放射線中毒は、吐き気、嘔吐、下痢、疲労、発作、昏睡、皮膚損傷を引き起こす。
米国の最も外側の沿岸諸州、つまりフロリダ州、ワシントン州、ニューイングランド州の大部分は、放射能が到達するまでの約 4日間の余裕をもって避難するのに最適な位置にある。
中西部の放射能汚染地域に住むアメリカ人は、4日間にわたる放射性降下物により 8グレイ(Gy)の放射線を浴びることになるが、これは死刑宣告に相当する。
これを、核兵器投下から 4日後に被爆したフロリダ、ワシントン、ニューイングランドの大部分といった、米国最外縁の沿岸諸州と比較すると、これらの州はわずか 0.001グレイの放射線しか浴びず、病気になる前に避難するのに最も適した状況にあったことになる。
米国では、一般市民の年間被曝限度は 0.001 グレイだが、特定の産業労働者は症状を引き起こすのに十分な 0.05グレイまで被曝することが許可されている。
アピー氏は、米国民にこのマップを不動産投資の機会と見なさないよう促し、ニューズウィーク誌の読者に対し、「核戦争を生き延びるのに最も安全な場所について考えるのは道徳的に忌まわしい」と語った。
「大規模な核戦争が起きれば、大量の煤や残骸が成層圏に舞い上がり、核の冬が訪れ、戦争の爆風や火災、放射線を生き延びた人々の全員、あるいはほぼ全員が死亡するだろう」とアピー氏は説明した。