アメリカでは、シカの病気である「慢性消耗病(CWD)」というプリオン病が拡大しています。ゾンビシカ病、などとも呼ばれる疾患です。
昨年末の時点で、以下の地点で確認されていて、その流行の範囲は拡大を続けています。
2023年12月に更新された「シカ慢性消耗病」の発生場所
BDW
このプリオン病は動物の病気ですが、「人畜共通病なのがどうか」が問題となっています。
人畜共通病の場合、ヒトにもこのプリオン病が感染するということになってしまうからですが、これについては、「ヒトに感染する可能性は低い」という研究はありましたが、確定はされていません。
そのような中、
「慢性消耗病のシカ肉を食べたハンター 2人が、クロイツフェルト・ヤコブ病で死亡した」
ことについての報告がなされていました。
その報告をご紹介します。
なお、このプリオン病については、「日本人は特異な遺伝的体質を持っている」ことについて以前 In Deep の以下の記事など複数回書いたことがあります。
(記事)日本人だけが持つ「唯一の特性」と、プリオン病による民族絶滅の関係
In Deep 2024年1月30日
これも将来的には深刻な話ではありますが、この話はともかく、アメリカの報告をご紹介します。
プリオン病に感染したシカ肉を食べた男性2人が死亡
Two men die after eating deer meat infected with Prion disease
mdlinx.com 2024/07/24
科学者たちが、シカ肉を食べた人々にプリオン病が発症した 2例に関する報告書を発表した。これは人獣共通感染の可能性があると科学者たちは述べている。
報告書によると、慢性消耗病(CWD)に感染したシカの肉を頻繁に食べていたハンター 2人がクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)を発症した。ハンター 2人は死亡し、うち1人は症状が現れてから 1か月以内に死亡した。 論文
しかし、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、この報告書で示唆されているような人獣共通感染は起こりそうにないと記者団に語っている。
プリオン病は、人間や動物に感染する、まれで致命的なさまざまな病気の総称だ。同じ病気のファミリーに属しているにもかかわらず、さまざまなプリオン病は互いに大きく異なり、感染方法も異なる。
ヒトに感染するプリオン病
・典型的なクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)
CJD は、ヒトに感染するプリオン病の一種。この病気は脳に影響を及ぼし、認知症やその他の問題を引き起こす可能性がある。すべての年齢層でまれだが、60代後半の高齢者によく見られる。
原因不明で散発的に発生する場合もあれば、遺伝によって家族内で発生する場合や、医療現場でプリオンに接触して医原性で発生する場合もある。CJD にはワクチンや治療法がなく、症状が現れると数か月から 1年以内に死に至る可能性がある。
・ベクタークロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)
CJDは、別の種類のプリオン病である変異型 CJD(vCJD)と混同されることがある。 米国 CDCは、名前がほぼ同じであるにもかかわらず、これらは感染リスクが異なる別の病気であると指摘している。CJDとは異なり、vCJDはより一般的には若い人に感染する。vCJDは、物に触れると痛みを感じる症状や精神症状を引き起こす可能性がある。
また、CJD とは異なり、vCJD は牛からの人獣共通感染によって感染することもある。具体的には、牛海綿状脳症 (BSE) に感染した牛の肉を食べた人に vCJD 感染が見つかっている。BSE は動物由来のプリオン病で、狂牛病とも呼ばれる。
動物に感染するプリオン病
・慢性消耗性疾患(CWD)
CWD は、シカ科の動物、つまり人気のある狩猟動物に感染するプリオン病の一種だ。動物の場合、研究により、CWDは「数週間から数ヶ月にわたる体重減少、行動の変化、過剰な流涎、嚥下困難、多飲、多尿」などの症状を引き起こす可能性があることがわかっている。
感染した動物のほとんどは、病気の発症から数か月以内に死亡する。研究では CWD が人間に感染することは証明されていないが、米国 CDCは BSE が人間に感染する可能性があるため、潜在的なリスクを指摘している。米国 CDCによると、CWD が人間に感染した場合、ハンターや CWD に感染した動物の肉を食べる人がこの病気を発症するリスクが最も高くなる可能性があるとしている。
・牛海綿状脳症(BSE)
BSE は牛に感染するプリオン病の一種だ。BSE に感染した牛の肉を食べると vCJD を発症するリスクがある。
CWD(シカ慢性消耗病)が人間に感染する可能性はある
米国 CDC の代表者は、死亡が報告された 2名のハンターの CJD の症例が CWD の人獣共通感染によるものとは考えていないと述べる。
「狩猟やシカ肉の摂取歴があるからといって、必ずしもその人が CJD に罹患するというわけではありません」と CWD を含むプリオン病を研究する CDC の疫学者ライアン・A・マドックス博士は USA トゥデイ紙にこの報告について語った。
「多くのアメリカ人が狩猟をし、さらに多くの人がシカ肉を食べます」とマドックス氏は付け加えた。「偶然に散発性 CJD を発症する人もいれば、そうでない人もいます」
しかし、マドックス氏は USA トゥデイに対し、CWD が人々の健康に及ぼす潜在的なリスクを評価するには調査が必要だという研究者の意見には同意すると語った。
今年 5月に発表された研究で、米国立衛生研究所(NIH)は、CWDに感染したシカ科動物が人間に感染する可能性は低いことを発見した。
研究者たちは、健康なヒトオルガノイド(※ 幹細胞から作るミニチュアの臓器)を様々なシカ科動物の CWD に感染したプリオンに 7日間さらすという実験室ベースの研究を行った。
曝露後、研究者たちはオルガノイドを最大 6か月間観察した。その結果、研究終了時までに、ヒトオルガノイドのいずれも CWD に感染していなかった。研究に関するニュースリリースによると、研究者たちは、この結果は「感染の伝播に対する相当な抵抗または障壁」を示していると述べた。
しかし、研究者たちは、一部の人々の遺伝的感受性の可能性を考慮していないことや、感染障壁の低い新しい CWD 株が将来出現する可能性があることなど、この研究の限界を指摘している。