史上最悪の大量死
アメリカで、飼育されているミツバチの大量死(あるいは大量失踪)によるコロニーの喪失が同国史上最悪となっていることが報じられています。
ワシントン州立大学のニュースリリースは、以下のように始まります。
米国における商業用ミツバチのコロニー損失は 2025年に 60~ 70%に達する可能性がある。
少し古いデータを見てみますと、以前のアメリカでのミツバチのコロニーの喪失率は以下のようになっていました。
2006年ら2019年までの米国のコロニーの喪失率
AP
以前は、おおむね 20%から 30%代の間で推移していたものが、この冬は、唐突に「最大 70%の喪失」という推定となっているようです。
大量死の原因はいろいろとあるのでしょうけれど、ただ、たとえば、2020年より以前のミツバチの生息環境と、現在のミツバチの生息環境にそれほど大きな差異があるとも思えません。
たとえば、農薬が原因にしても、以前も同じように農薬や殺虫剤は使われていたでしょうし、他の環境要因にしても、この数年は激しく変わったというようなことはそれほどないように思います。しかも、アメリカは広いです(つまり、地域によりさまざまな気候が存在する)。それなのに、一様に影響を受けているというのは謎とはいえます。
少し前に In Deep で、アメリカで「蝶」が大幅に減少していることについて、以下の記事でふれたことがありました。
・アメリカの蝶が壊滅的な速度で消滅していることを突き止めた研究から思い出す「その最大の要因」。それは農薬でも殺虫剤でもなく…
In Deep 2025年3月11日
ここで私は、「地球の磁場の減衰」との関係を書いていますが、本当にそれが原因なのかどうかはわかりません。
何より重要なのは、「減少しているのは蝶やミツバチだけではない」ということがあります。ほとんどすべての昆虫が世界中で減少しています。
ミツバチに限らず、多くの昆虫が受粉と関係しています。たとえば、夜間に花粉を運ぶのは主に「蛾」であることが論文で示されていまして(翻訳記事)、その蛾さえ最近はあまり見ないですからね。
ミツバチに関しては、世界全体で大量死が続いていますが、そのため、ひとつの国や地域での要因というより、「世界全体に共通する要因は何なのか」ということを考えなければ、大量死の拡大の原因はわかり得ないとも思います。
ともかく、アメリカのミツバチの大量死についてのガーディアンの記事です。
米国でミツバチの死亡数が過去最高を記録、科学者らが主な原因究明に奔走している
US honeybee deaths hit record high as scientists scramble to find main cause
Guardian 2025/03/25
米国でミツバチの死亡数が過去最高を記録しており、前例のない数のミツバチの群れの減少により、多くの養蜂家が破滅の危機に瀕しており、科学者たちはミツバチの大量減少の主な原因の特定に奔走している。
アメリカで飼育されているミツバチの 3分の2以上を対象にした継続中の「プロジェクト Apis m 」の調査によると、商業養蜂家は冬の間に平均で 60%以上のミツバチの群れを失ったと報告している。
米コーネル大学の昆虫学准教授スコット・マッカート氏によると、この大幅な減少率は昨年の記録的な減少率を上回り、「米国史上最大のミツバチのコロニーの損失」となる見込みだという。
マッカート氏は、カリフォルニアの広大なアーモンド収穫の受粉のためにミツバチの巣箱が今冬大量にカリフォルニアへ移動した際に、驚異的な損失率が明らかになったと述べた。
ミツバチは、リンゴ、ベリー、カボチャ、メロン、サクランボなど、全作物の半分を受粉させることで農業システムに不可欠な存在となっているが、養蜂家たちは、この仕事を遂行するために必要なミツバチの数を維持するのにますます苦労している。
「今年は本当にひどいことが起きています」とマッカート氏は言う。
「毎年大きな損失が見られてきましたが、今はさらに悪化しており、心配です。場所によっては壊滅的な損失があり、今年はアーモンド園の一部で受粉が不足しました。これらの影響が他の作物に波及するかどうかはまだわかりませんが、他の作物に波及する可能性はあります」
最近のミツバチの損失額は 1億3900万ドル (約208億円)と評価されており、ハチミツの生産量が減少する中でハチミツの価格が 5%上昇する中で発生した。
現在、多くの養蜂家がこの不足分を補うのに苦労しており、中には廃業に追い込まれた養蜂家もいる。
「すべてなくなってしまいました」と、ある養蜂家はプロジェクト Apis m の調査に応えて語った。
「家の資産もなくなり、退職金もなくなり、家族のお金もなくなりました。残っているのは空の箱だけです。死んだミツバチさえいません。彼らもいなくなってしまいました」
コロニーの一定部分は、通常、より衰弱する冬の数か月間に死滅するが、この損失率は、コロニーが完全に消滅するか死ぬというコロニー崩壊症候群と呼ばれる現象が米国で発生し始めた約 20年前までは、通常約 10%または 20%程度だった。現在では、平均してすべてのコロニーの半分が失われている。
科学者たちは、気候危機、生息地の喪失、殺虫剤の使用がすべてのミツバチに深刻な影響を与えていることを確認している。
米国では、その大半はミツバチではなく、在来の野生種 4,000種である。飼育されているミツバチは、栄養不足、不適切な飼育方法、寄生虫の一種であるミツバチヘギイタダニの蔓延、病気の被害も受けている。
米国では、飼育されているミツバチと野生のミツバチの両方が減少しており、すでに一部の食用作物の供給が制限され始めており、ハチミツの収穫量も減少している。
ミツバチの減少は、驚くべき速度で種が絶滅している昆虫界のより広範な危機の一部だ。研究者たちは、昆虫の減少は、食糧生産、植物の開花、廃棄物処理など、地球上の生命の基本的な機能を危険にさらしていると警告している。
最新の記録的なミツバチの減少については、現在、アメリカ農務省の職員が調査中だ。
農務省はミツバチ、ミツバチの蜜蝋、花粉を分析し、寄生虫やウイルスがミツバチの死因であるかどうかを判断している。
しかし、ドナルド・トランプ政権による職員数の削減により、コーネル大学が介入し、サンプルが農薬の影響を受けているかどうかを判断するためのさらなる必要な調査を行う必要に迫られている。
科学者が最近の損失の主な原因についてより明確な考えを持つまでには、約 1か月かかるだろう。
「ミツバチに影響を与えている要因はひとつだけではありませんが、現在、最も重要なストレスは何なのかを解明しようとしています」とマッカート氏は語った。
「現時点では多くのことが疑われており、新しいウイルスが関係しているという説もありますが、データを集めなければなりません。現段階では(減少の原因として)何も除外することはできません」
ミツバチの記録的な減少は、昨年発表された数字に続くもので、逆に現在、米国のミツバチのコロニーの数は過去最高である 380万匹で、5年前より約 100万匹増加している。
これは養蜂に興味を持つ人が増えたことによるもので、より多くの蜂の群れが分割され、作られていることを意味するとマッカート氏は述べた。「これによって蜂の群れの数は増えているが、それがうまくいっていることを意味するわけではありません」と同氏は述べた。
「システムへの供給を増やしているにもかかわらず、コロニーの損失率はむしろ増加しています。もう 1つの重要な点は、誰にも管理されていない野生の花粉交配者の生息範囲の減少や絶滅の非常に確かな証拠があることです」
「ミツバチと野生のミツバチを比べるのは、ニワトリとキツツキを比べるようなものです。だからといって、ニワトリのように農業の一部であるミツバチが美しくないということではありません。ミツバチは人々に多くの喜びをもたらし、作物の受粉がなければ私たちはまったくうまくやっていけないでしょう」