音楽嗜好と遺伝子の関係
ネイチャー誌に「音楽の楽しみ方や感受性の度合いが遺伝子と関係している」という内容の研究が掲載されていました。
その研究によると、
「個人間の音楽の楽しみ方の違いの 54%は遺伝子に起因する」
という結果となったそう。
確かに、音楽が大好きという人もいれば、音楽にはそれほど興味がないという人たちもいます。
個人的な経験では、音楽の好みに関しては環境的な要因が大きいのかなとは思いますが、遺伝子の影響もかなりあるようです。
まあしかし、ケースバイケースなんでしょうね。
たとえば、私は、少なくとも若い頃は音楽が好きで、比較的どんな音楽でも楽しんでいましたが、両親はほとんど音楽を聴かない人でした (両親がレコードなどを聴いている姿を見たことがないです)。
私にはきょうだいもいますが、音楽を聴いていた印象はないです。
しかし、個人的にいえるのは、私にしても「年齢と共に、音楽への興味が減少していっている」という現実もあります。
ちなみに、あまり関係ないですけれど、
「音楽を聴くと、生きた赤血球細胞が増加する」
ことが研究でわかっています。赤血球細胞が「再生」するのです。
以下の記事で論文をご紹介しています。
・音楽が人体に与える健康的な影響に関する画期的な実験が行われる。それにより、「音楽はヒトの血液中の赤血球を再生させる」ことが判明
In Deep 2019年6月6日
この研究で興味深かったのは、
「うるさい音楽のほうが、静かな音楽より、多く赤血球細胞が増加する」
のです。
この実験では、クラシック、ピアノ、ギター、女性ヴォーカル、男性ヴォーカル、聖歌隊、ラップ、ダンス、テクノ、ハウス、ハープからスピリチュアル志向の音楽、そしてアコースティックギターのサウンドなど多くのジャンルの音楽で赤血球細胞の増加数が測られたのですが、たとえば、
「テクノやハウス、あるいはロックなどが最も赤血球細胞が増加した」
のですよね。
クラシック音楽より、最大 3倍以上の赤血球細胞の増加を示していました。
何となくクラシックとか静かな音楽のほうが細胞にはいいような感じを持っていたのですが、実際には真逆のようです。
音楽と人間の関係は興味深いです。
話が関係ないところに行ってしまいましたが、ネイチャー誌の論文を取りあげていたライブサイエンスの記事をご紹介します。
双子9,000人を対象とした研究で、一部の人々は「音楽とより深いレベルでつながるようにできている」ことが判明
Some people are 'wired to connect with music on a deeper level,' study of 9,000 twins finds
livescience.com 2025/04/16
遺伝子は、楽曲が呼び起こす感情的な反応から音楽が育む社会的つながりまで、音楽の楽しみのさまざまな側面に影響を与える。
特定の曲を聴くと鳥肌が立ったり、涙を流したりする人もいれば、それほど強い反応を示さない人もいる。新たな研究によると、音楽の楽しみ方は遺伝によって部分的に決まる可能性があるようだ。
3月25日にネイチャー・コミュニケーションズ誌に掲載された研究によると、個人間の音楽の楽しみ方の違いの 54%は遺伝子に起因するという。
研究に携わった科学者たちは、残りの割合は、楽器を演奏したり一緒に音楽を聴いたりする家族の中で育ったことや、その他の過去の音楽関連の経験といった環境要因によるものだとしている。
フロリダ・アトランティック大学の声楽准教授で、この研究には関わっていないミッチェル・ハッチングス氏はライブサイエンスに電子メールで以下のように語った。
「この研究は、音楽に携わる我々の多くが長い間疑っていたこと、つまり、一部の人々は音楽とより深いレベルでつながるようにできているのではないかという点を探求しています」
統計モデル化を通じて、この研究では、音楽が人の気分に与える影響、リズムに合わせて体を動かすことで得られる喜び、音楽体験の共有を通じて人々が築く絆など、音楽の楽しみのさまざまな側面に、さまざまな遺伝的要因が影響していることも判明した。
ハッチングス氏は以下のように述べる。
「音楽、ダンス、他者との演奏などに対する感情的なつながりに、異なる遺伝子経路が影響を与えるという考えは、現実の生活にも当てはまります」
「例えば、歌手の中には表現力に惹かれる人もいれば、リズムに惹かれる人もいれば、共同作業の場で力を発揮する人もいます。」
つまり、音楽制作に携わる人々が、音楽という芸術形式に惹かれる理由はそれぞれ異なるということになる。
音楽の楽しみ方における遺伝子の役割を探るため、認知神経科学の博士課程学生であるジャコモ・ビグナルディ氏と、オランダのマックス・プランク心理言語学研究所の同僚たちは、37歳から 64歳までの 9,000人以上の双子のデータを調査した。
データは、大規模な医学研究リソースであるスウェーデン双子登録簿から抽出された。
この研究には、一卵性双生児約 3,400人と二卵性双生児約 5,600人が含まれていた。
一卵性双生児は DNA をほぼ 100%共有しているが、二卵性双生児は約 50%を共有している。
そのため、異なる双生児ペアの音楽の楽しみ方の側面を比較することで、研究者たちは遺伝の影響を推定することができた。
一卵性双生児が二卵性双生児よりも音楽の楽しみ方に関して類似した経験をしているのであれば、その経験には遺伝が何らかの役割を果たしているに違いないと研究者たちは推測し、その遺伝的影響の程度を推定したいと考えた。
人々の音楽の楽しみ方を測るため、研究者たちはバルセロナ音楽報酬質問票を用いた。
この質問票は、参加者に 20項目の記述に対する同意度を、「 1(強く反対)から 5(強く賛成)」の尺度で評価してもらうものだった。
その中には、
「音楽は私を落ち着かせ、リラックスさせてくれる」
「大好きな曲を聴くと、思わずリズムに合わせて足踏みしたり体を動かしたりしてしまう」
「誰かと音楽を共有すると、特別なつながりを感じる」
といった記述があった。
一卵性双生児は、平均すると二卵性双生児に比べて音楽の楽しみ方の類似性が 2倍以上であることから、人々が音楽から得る楽しみの度合いを形作る上で遺伝が重要な役割を果たしていることが示唆される。
しかし、この研究の限界の一つは、双子は同じ家庭で育っているため、音楽への接触レベルが同じであるという仮定に基づいていることだ。
そのため、研究者たちは、音楽の楽しみ方の違いは環境要因ではなく、遺伝によるものだと推測した。
しかし、研究者たちは、この仮定が常に当てはまるわけではないことを認めている。
例えば、双子の片方はもう片方よりも音楽教室やコンサートなどへの参加など、音楽体験を多く求める傾向があり、それが音楽の楽しみ方を形作っている可能性も考えられる。
もう一つの限界は、研究対象集団が均質であることにある。
エディンバラ大学哲学・心理学・言語科学学部のミシェル・ルチアーノ教授はライブサイエンスへのメールで以下のように述べた。
「この双子研究はスウェーデン人の双子を対象に行われたため、遺伝子と環境の相対的な影響が異なる文化圏でも同様に観察されるかどうかを確認するには、異なる国での研究が必要です」
研究者たちは、参加者のメロディー、リズム、音程を区別する能力も検査した。
これらは、これまで遺伝的要因と関連付けられていた音楽スキルだ。また、報酬や肯定的な結果に対する参加者の全体的な反応性、つまり「報酬感受性」と呼ばれる特性も評価した。これにより、遺伝子が音楽の楽しみに特化しているのか、それとも双子の音楽知覚能力や報酬刺激を楽しむより広範な傾向に関連しているのかを研究チームは特定することができた。
結果は、音楽の楽しみに対する遺伝的影響の多く(約70%)が音楽のスキルや報酬に対する感受性とは関係がないことを示した。
これはハッチングス氏の実生活での観察とも一致している。
「外的な報酬に特に刺激を受けない生徒でも、演奏したり音楽を聴いたりするだけで生き生きと活動する生徒たちを見てきました」
ルチアーノ氏は今後について、「今回の発見は、音楽の楽しみの進化的起源や、音楽が呼び起こすポジティブな感情につながる脳の神経経路の研究を促進するはずです」と指摘した。