マイクロプラスチックが気象を変える仕組み
プラスチック、特に微細な粒子であるマイクロプラスチックの影響は、たとえば、人体や海洋生物などに対して大きなものであることはわかっています。
人間においては、「生殖能力を下げる」ことが判明していて、人間の生殖能力が下がるのであれば、他の哺乳類などの生物にも同等の影響がある可能性もありますが、何しろ、今やマイクロプラスチックは世界全体の水や土や大気に膨大な量で広がっているわけで、しかも分解はされないし、回収のしようもないものでもあります。
そのマイクロプラスチックが、
「気象に影響を与えている可能性がある」
という論文が発表されていました。「マイクロプラスチックが雲の生成に影響を与えている」ということに関しての研究です。
ちなみに、雲は、水蒸気が凝結したものですが、水滴が氷になるためには、
「核となるものが絶対に必要」
です。
中心に核がなければ、地球の気温や水蒸気の状態だと、雲はできないのです。
水蒸気の凝結・昇華、また水滴の凍結には、微粒子(エアロゾル)の存在が不可欠である。雲粒(水滴や氷晶)は微粒子を「芯」にして形成され、このプロセスを核形成という。
不純物を含まない水では「雲は作られない」のです。
しかし、地球の大気中には、さまざまな核となる粒子が存在しているために、これらが核となって雲は作られます。
一般的には、微粒子の種類は、海塩の粒子、硫酸塩、土の粒子や火山灰や黄砂、有機成分(バクテリアなど)を含むバイオエアロゾルなどだそうです。
そして、この研究は、大気中に多く拡散していると思われるマイクロプラスチックが「雲の生成に効率的な核となる」可能性を示した研究でした。
この研究の方向が正しければ、
「大気中にマイクロプラスチックが多くなればなるほど雲が多くなる」
ことになり、つまり、雨などが多くなりやすいということになりそうです。
とはいえ、雲の形成には他にさまざま条件があり、たとえば「宇宙線」も、雲の生成に決定的な影響を与えます。
あるいは、「気象」というもの自体の形成にもさまざまな要因がありますので、一概には言えないのでしょうけれど、今後も大気中のマイクロプラスチックが増加していくようだと、気象への影響もあるのかもしれませせん。
あるいは現在、2022年のトンガ沖の海底火山の噴火により大気中の水蒸気が多い状態ですが、それと合わせて考えると、最近、世界中でたまに見られるような「異常な集中豪雨」のようなものも増えていくのかもしれません。
先日のスペインのバレンシア州で発生した集中豪雨などは、以下のような異常な集中豪雨でした。
バレンシアの2024年の累積雨量(10月29日だけで10カ月分の雨量の4倍以上)
BDW
研究を取り上げていた記事をご紹介します。
マイクロプラスチックは雲の形成を促進し、天候や気候に影響を及ぼす可能性がある
Microplastics promote cloud formation, with likely effects on weather and climate
Conversation 2024/11/07
雲は、大気中の目に見えない気体である水蒸気が塵などの小さな浮遊粒子に付着して、液滴または氷の結晶に変化することで形成される。
最近発表された研究では、マイクロプラスチック粒子にも同じ効果があり、マイクロプラスチックを含まない水滴よりも 5~ 10℃高い温度で氷の結晶を生成する可能性があることが示されている。
これは、空気中のマイクロプラスチックが、本来は雲が形成されないような状況で雲を発生させ、天候や気候に影響を及ぼす可能性があることを示唆している。
大気化学者たちは、さまざまな種類の粒子が液体の水と接触するとどのように氷が形成されるかを研究している。大気中で絶えず起こるこのプロセスは、核形成と呼ばれる。
大気中の雲は、液体の水滴、氷の粒子、またはその両方の混合物から構成される。気温が 0℃ ~ マイナス 38℃の中層から上層大気の雲では、通常、乾燥した土壌からの鉱物の塵粒子や、花粉やバクテリアなどの生物粒子の周囲に氷の結晶が形成される。
マイクロプラスチックは幅 5ミリ未満で、中には顕微鏡でしか見えないものもある。これまで科学者たちは南極の深海、エベレスト山頂、南極の新雪でマイクロプラスチックを発見している。これらの破片は非常に小さいため、空気中を容易に移動できる。
なぜそれが重要なのか
降水のほとんどは通常、氷の粒子として始まるため、雲の中の氷は天気や気候に重要な影響を及ぼす。
世界中の非熱帯地域の雲頂の多くは、大気圏にまで十分に高く伸びているため、冷たい空気によって雲頂の水分の一部が凍る。そして、氷が形成されると、周囲の水滴から水蒸気を吸い上げ、結晶は落下できるほど重くなる。
氷が形成されない場合、雲は雨や雪を降らせるのではなく、蒸発する傾向がある。
小学校では、水は 0℃で凍ると習うが、これは必ずしも真実ではない。塵粒子など、核となるものがなければ、水は凍結する前にマイナス 38℃ まで過冷却される可能性がある。
気温が高いときに氷が凍るには、水に溶けない何らかの物質が水滴の中に存在する必要がある。この粒子は、最初の氷の結晶が形成される表面を提供する。マイクロプラスチックが存在すると、氷の結晶の形成を引き起こし、雨や雪の降る量が増える可能性がある。
雲はさまざまな方法で天気や気候にも影響を与える。雲は地球の表面から入ってくる太陽光を反射して冷却効果をもたらすと共に、地球の表面から放射される放射線の一部を吸収して温暖化効果をもたらす。
反射される太陽光の量は、雲に含まれる液体の水と氷の量によって異なる。マイクロプラスチックによって雲内の氷粒子の量が液体の水滴の量よりも増えると、この変化の比率によって雲が地球のエネルギーバランスに与える影響が変わる可能性があるのだ。
研究内容
マイクロプラスチックの破片が水滴の核として機能できるかどうかを調べるために、研究では、大気中に最も多く存在する 4種類のプラスチック、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレートを使用した。
それぞれを、そのままの状態と紫外線、オゾン、酸にさらされた後の両方でテストした。これらはすべて大気中に存在し、マイクロプラスチックの組成に影響を与える可能性がある。
研究者たちはマイクロプラスチックを小さな水滴に浮かべ、ゆっくりと水滴を冷やして凍る様子を観察した。また、氷の核形成はマイクロプラスチックの表面化学に依存する可能性があるため、プラスチック片の表面を分析して分子構造を決定した。
研究したプラスチックの大半では、液滴の 50%がマイナス 22℃まで冷却されると凍結した。
これらの結果は、カナダの科学者による最近の別の研究の結果と一致しており、この研究でも、ある種のマイクロプラスチックは、マイクロプラスチックを含まない液滴よりも高温で氷の核を形成することが発見されている。
紫外線、オゾン、酸にさらされると、粒子上の氷核形成活動が低下する傾向があった。これは、氷核形成がマイクロプラスチック粒子の表面の小さな化学変化に敏感であることを示唆している。
しかし、これらのプラスチックは依然として氷核形成をしており、雲の氷の量に影響を与える可能性がある。
マイクロプラスチックが天候や気候にどのような影響を与えるかを理解するには、雲が形成される高度におけるマイクロプラスチックの濃度を知る必要がある。
また、鉱物の塵や生物粒子など、氷の核となる可能性のある他の粒子と比較してマイクロプラスチックの濃度を理解し、マイクロプラスチックが同等のレベルに存在するかどうかを確認する必要がある。これらの測定により、マイクロプラスチックが雲の形成に与える影響をモデル化できるようになる。
今後の研究では、可塑剤(※ プラスチック製品をやわらかくするもの。フタル酸エステルなど)や着色剤などの添加物を含むプラスチックや、より小さなプラスチック粒子を研究する予定だ。