自給自足体制も崩壊
イスラエルによるガザへの援助トラックの封鎖により、ガザ地区には、3カ月近く食べ物が入ってきていません。
4月25日には、国連世界食糧計画が「ガザの食糧備蓄が枯渇した」と発表しており、本格的な飢餓が近づいていることが示されていました。
5月19日には、イスラエルが 3カ月ぶりにガザ地区への食糧供給を許可したのですが、
「許可されたトラックはたった 9台」
でした(報道によっては 5台)。
ガザ住民への食糧支援には、1日 500台以上のトラックによる援助物質が必要だとされていますので、何の役にも立たない許可とはいえます。
最近、中東のミドル・イースト・モニター紙が「ガザが壊滅的な飢餓に直面」というタイトルの意見記事を掲載していました。
ここには、2023年10月にガザでの戦争が始まる以前から、ガザ地区では食糧が不足していたことや、戦争開始以来、ほとんどの畑や家畜が消滅し、農業が崩壊したことで、自給率がほぼゼロになっていることなとが述べられていました。外から食べ物が入ってこないと、食べるものがまったくない状態なのです。
そのミドル・イースト・モニターの記事をご紹介させていただきます。
ガザが壊滅的な飢餓に直面
Gaza faces catastrophic famine
Middle East Monitor 2025/05/19
2025年5月17日、ガザ地区ガザ市のジャバリア難民キャンプにて。
ガザ地区は現在、現代における最悪の人道危機の一つに直面している。飢餓の悲劇は耐え難いレベルに達し、困窮する人々の叫びは届かなくなっている。
占領国(イスラエル)は豊富な食糧供給を享受し、世界は快適な生活を送っている一方で、ガザの子どもたちは飢えで命を落としている。2ヶ月以上続く完全封鎖により、住民の大部分は深刻な食糧と水不足に直面し、安全と避難所を完全に失っている。
ガザの飢餓:長年にわたり進行してきた危機
2023年10月に戦争が勃発する以前から、ガザ地区は封鎖、失業、貧困に苦しんでいた。国連の分析によると、ガザ地区の世帯の 68%以上が様々な程度の食料不安を抱え、食糧支援に大きく依存していた。2022年末までに、全体の貧困率は約 61%に達し、失業率は 45%に達した。
対照的に、占領国は国内生産と多様な輸入に支えられた十分な食料資源と高い食の安全性を享受しており、イスラエルの飢餓率は事実上ゼロだ。
世界全体の平均飢餓率は 9.2%を下回り、アラブ諸国でも 14%を超えることはなかった。このことから、ガザの戦前 (2023年10月以前)の飢餓率は世界で最も高い水準にあったことがわかる。
この危機は、2007年以降占領軍が実施した封鎖が主な原因だ。封鎖により、肥料、飼料、農業資材など、「軍民両用」と分類される多くの品目の輸入が禁止された。
イスラエルは国境検問所を管理しているものの、小麦粉、野菜、乳製品といった生活必需品の輸入は限られた量しか許可されていなかった。その結果、ガザの人々は厳しい輸入制限の下で、最低限の物資しか入手できなかった。
食料源を狙うイスラエル:差し迫った大惨事の警告
2023年10月の戦争勃発により、ガザ地区は農業、畜産、漁業の壊滅的な崩壊を目の当たりにした。
国連による衛星画像の分析によると、農地 15,053ヘクタールのうち 75%にあたる 11,293ヘクタールが焼失または破壊された。
家畜の被害は、全動物・家禽類の 96%を超えた。ガザ地区のオリーブ園と果樹園の 4分の3以上も壊滅した。
この大規模な破壊は、かつてガザ地区の食糧需要の 40%を賄っていた地元の食糧生産を事実上壊滅させた。今やその生産はほぼゼロだ。
水と灌漑インフラも深刻な被害を受け、井戸は機能を停止し、燃料不足によりエネルギーシステムは崩壊した。農業部門は今や完全な崩壊の危機に瀕しており、人々は暗闇の中、廃墟をくまなく探し回り、肥料や種子を探している。
さらに、占領軍は 37の食糧支援配給センター、温かい食事を提供する 26のコミュニティキッチン、そして食糧を運ぶ複数の人道支援トラックを意図的に攻撃した。これらの攻撃は、戦時中に繰り返された検問所の完全閉鎖に加えて発生しており、今回の閉鎖はその期間において最長で、2か月を超えている。
戦争は直接的な破壊に加え、パン屋や食料倉庫の閉鎖を余儀なくさせた。2025年3月末までに、世界食糧計画(WFP)は、支援対象のパン屋すべてがガソリンと小麦粉の不足により営業を停止したと発表した。
食料価格は急騰し、小麦粉の価格は戦前の 500~ 700%に達した。一方、数千台の食糧支援トラックが国境で足止めされ、ガザへの入国を拒否されたままだ。
前例のない飢饉が命を奪っている
ガザ地区は本格的な飢餓の大惨事に見舞われている。
人道支援活動家らは、ガザ地区には食糧の安全が確保されている地域は残っておらず、状況は第 4段階(飢餓緊急事態)あるいは第 5段階(飢餓大惨事)に達していると報告している。
特に世界食糧計画(WFP)が 2025年4月25日時点でガザ地区の食糧備蓄が完全に枯渇したと発表したことを受けて、正式な飢餓宣言が間もなく出されると見込まれている。
食糧価格は記録的な高騰を見せ、400%増の 2,612%に達し、パン 1斤の価格は包囲前の 15倍にまで上昇した。
生活手段は完全に崩壊している。飢餓の深刻化と粉ミルクの入手困難により、保健当局は飢餓に関連した死者 57人(うち子ども 53人)を記録している。
重度の栄養失調は、子ども、妊婦、授乳中の女性、高齢者、そして障がい者の間で蔓延している。2025年5月4日、ガザの政府メディア事務所は、5歳未満の子ども 3,500人以上が飢餓による差し迫った死の危機に直面していると報告した。
さらに、110万人の子どもが生存に必要な最低限の食料を得られず、7万人以上の子どもが急性栄養失調で入院している。このまま放置すれば、この飢餓による人的被害は、ソマリア、イエメン、南スーダンの危機を上回る可能性がある。
飢餓は武器でも戦争の道具でもない
国際規範は、飢餓を戦争行為や軍事目的達成の手段として利用することを明確に禁じている。これは戦争犯罪および人道に対する罪に該当する。
ジュネーブ条約第 4条は、国家が「飢餓を武器として用いること」、あるいは懲罰の形態として用いることを明確に禁じている。国際刑事裁判所(ICC)は、起訴状において、生存に不可欠な手段を奪うことで民間人を意図的に飢餓状態に陥れることは戦争犯罪として訴追可能であると断言している。
さらに国際法は、「食糧の供給を拒むことにより民間人に苦痛を与えること」は重大な国際犯罪を構成すると規定している。
実際には、複数の機関が加害者の責任追及に取り組んでいる。
国際刑事裁判所(ICC)は捜査を開始し、イスラエル首相と元国防大臣に対し、「民間人への食糧供給の拒否」を含む戦争犯罪への関与を理由に逮捕状を発行した。
国連も調査委員会を設置し、ガザにおける人権侵害を監視する国際事実調査団を任命した。国連の人権報告書では、「民間人の飢餓」という犯罪が重要な位置を占めている。
こうした措置にもかかわらず、占領国は飢餓を戦争兵器として利用し続けており、国連安全保障理事会におけるアメリカの度重なる拒否権行使によって勢いづいている。このアメリカの拒否権行使は、民間人に対する侵害の継続を事実上擁護し、奨励している。
ガザを飢餓から救うための実践的なステップ
国際的な圧力とアドボカシー:国境検問所の即時開放と民間人保護措置の実施を確保する拘束力のある決議を採択するには、国際的な協調的な圧力が緊急に必要だ。
国連人権理事会は、この危機の追跡調査を継続し、調査を強化しなければならない。国連総会は、国連憲章を発動し、民間人の飢餓を人道に対する罪として正式に認定すべきだ。
国際刑事裁判所(ICC)と国際司法裁判所(ICJ)は、法的手続きを加速させなければならないん。国際機関、特にイスラム協力機構(OIC)とアラブ連盟は、国際フォーラムにおいて占領国とその指導者に責任を負わせるために、強い立場を取らなければならない。さらに、意思決定者がこの人道的悲劇に立ち向かうよう促すためには、市民社会と国際社会からの圧力の強化が不可欠だ。
ガザ地区における緊急対策:利用可能な太陽光パネルを活用した井戸と淡水化プラントの修復・稼働を早急に進める必要がある。
パン屋を再建し、避難テント周辺を含む季節農作物や家庭菜園にも配慮し、食料自給を支援する必要がある。残りの燃料は、パン屋の運営と食事の準備に充てるべきだ。
食料配給は、公平性を確保し、独占的慣行を抑制し、インフレを抑制するために、より効果的に調整する必要がある。
国境再開に向けた外部的な準備:保存食の備蓄に努めるとともに、缶詰や乾燥などによる生鮮食品の保存方法を開発する必要がある。
国境が再開された際に食料生産を直ちに再開できるよう、種子、農具、肥料、家畜飼料を含む緊急農業キットを準備する必要がある。
また、食料、発電システム、取水・浄水・配水インフラのスペアパーツを積んだ数千個のコンテナを輸送するための緊急物流計画も策定する必要がある。
飢餓撲滅のための予備計画:飢餓を撲滅するという世界的な持続可能な開発目標(SDGs)に沿い、緊急事態後の復興計画を策定する必要がある。
この計画は、種子の配布、土地の再生、農業施設の復旧、温室の再建、灌漑用水路の掘削、井戸の修復、肥料と農機具の提供に重点を置くべきだ。また、失われた家畜の再生と、農地の再生、家畜資源の再構築、既存および新規農家の支援のための農業インキュベーターの設置を優先すべきだ。
ガザ危機は一時的な紛争ではなく、世界の道徳的良心が真に試されるものだ。
解決策のない日々は、さらなる苦しみと罪のない人々の命の喪失を意味する。UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)のフィリップ・ラザリーニ事務局長が述べたように、「ガザの人類は最も暗い時を迎えている」。
時間は被害者の味方ではない。手遅れになる前に、世界は今すぐ行動を起こさなければならない。