スペースウェザーが、「地球に到達する宇宙線量の急激な低下」を報告していました。2021年から 30%減少したとのことです。
スペースウェザーは、米カリフォルニア州で定期的に観測気球を打ち上げて、宇宙線量の観測を行っていますが、宇宙線観測で最も歴史があるのは、フィンランドのオウル大学にある宇宙線観測モニターで、1965年から宇宙線の観測を続けています。
そのグラフを見ますと、現在の宇宙線量は「観測史上4番目に低い」ことが示されています。
1965年からの宇宙線量の推移
cosmicrays.oulu.fi
2019年には、観測史上最高値に迫る宇宙線量を示していたのですが、そこから、かなりの勢いで宇宙線量が低下しています。
この宇宙線量の低下に何か影響があるのかというと、それは一概にいえるものではないでしょうけれど、たとえば、今回ご紹介するスペースウェザーの記事に「宇宙線はガンを誘発する」というような研究もありますし(翻訳記事)、その一方で、
「宇宙線は、脳内の GABA のバランスを安定させ、中枢神経系に有益」
というロシアの研究もあります(翻訳記事)。
あと、宇宙線の量は、「地球の雲の量」と正確に反比例していまして、つまり現在は宇宙線の量が少ないわけですので、地球全体としては、「雨が少ない」という傾向になるのかもしれません(世界各地で豪雨が多いとはいえ)。
1978年から1998年までの雲量と宇宙線量の関係
Solar Terr Phys
地球、あるいは太陽系に到達する宇宙線の量は、太陽活動と「反比例」していまして、通常は以下のようになります。
・太陽活動が大きい(黒点数が多い) → 宇宙線量が減少する
・太陽活動が小さい(黒点数が少ない) → 宇宙線量が増加する
現在の太陽活動であるサイクル25は、NASA などの予想では、2025年にかけて極大期、つまり太陽黒点活動が最も多い時期が続くとされていますので、予測通りならば、地球に到達する宇宙線量は、さらに減っていくとみられます。
その影響は明確にはわかりませんけれど。
以下、スペースウェザーの記事です。
大気放射線が急激に減少
ATMOSPHERIC RADIATION IS PLUMMETING
spaceweather.com 2024/11/20
地球の大気中の銀河宇宙線の数が 10年ぶりの低水準に達した。
2015年から 2024年にかけてカリフォルニア上空で行われた 300回以上の高高度気球飛行の以下のデータセットを見ると、この急激な減少がわかる。
2015年3月〜2024年11月の大気中の宇宙線量の推移
Earth to Sky Calculus の学生が収集したデータによると、大気中の放射線は過去 3年間で年間約 10%減少しており、全体ではほぼ 3分の1の減少となっている。
減少は成層圏だけに起きているわけではない。航空高度にも影響が及んでいる。つまり、飛行機に乗る人たちが飛行中に吸収する放射線が減っているということだ。
NASA と NOAA は最近、太陽活動極大期が到来し、太陽活動が過去 10年以上の中で最高に達したと発表したが、では、なぜ宇宙線の放射が減少しているのだろうか。
この宇宙線は銀河から来ている。超新星爆発やその他の激しい事象により、天の川は高エネルギー粒子で満たされる。「銀河宇宙線」と呼ばれるこれらの亜原子の砲弾は宇宙船の壁を貫通し、宇宙飛行士に長期的な健康上の脅威をもたらす。実際には、宇宙飛行士たちにとって、宇宙線は太陽フレアよりも悪いものだ。
銀河宇宙線は減少しているのは、太陽活動極大期が理由だ。
太陽活動周期がピークに達するにつれて、太陽の磁場はより強くなり、より複雑になっている。これにより、銀河宇宙線が太陽系を貫通することがより困難になり、観測される宇宙線量の減少の原因となっている。
こんなことが何かに関係するだろうかというと、最も関係するのは宇宙飛行士たちだ。欧州宇宙機関は、銀河宇宙線を火星探査の「障害」と呼んでいる。
飛行機の乗客も影響を受ける。2018年のハーバード大学の研究では、宇宙線が飛行乗務員のがんの危険因子であると指摘されている。
現時点では、減少が鈍化する兆候は見られないが、私たちは気球の打ち上げを継続し、さらなるデータを提供するつもりだ。